platonic heart | ナノ


 


 笑顔の彼氏



昔とは違う、今は大丈夫や
そんなもん前言撤回やっちゅうねん!


platonic heart
sweet.1-4 笑顔の彼氏


時計が昼を伝える頃、立海に向かう途中で柳生君からメールが届いた。
“屋上に居ます”と綴られた文章を見れば大袈裟に溜息を吐きたくなって。あの真面目で優秀な柳生君まで、授業をすっぽかして名前に付き合わせてしもてるんかと思うと申し訳なくなった。


「…ほんま何で今やねん」


まさか名前を迎えに行く為に授業をサボる日が来ようとは夢にも思ってへんかった。今までなら放課後とか土日の部活中とか。学校サボってまで家出する事なんや無かったのに。

それだけ彼女はストレスを溜めてたんやろうか。否、それを言うてしまえば俺が名前を満たしてやれへんかったっちゅう腑甲斐なさが込み上げるから無しやな無し。
にしても自ら言うた事なんやから1週間と言わんと1ヶ月…2週間で良えからもっとあの時間を楽しみたかったんやけど。1週間なんや過去にも数回我慢して自粛してた事もあったのにそれと変わらへんとか。あれか、自分で言うた手前変なプレッシャーが生まれて余計に爆発したんやろか。
まあええわ、名前に会えば全て分かる事や。俺は早足で立海を目指した。

そして20分程して立海の屋上へ繋がるドアの前に着いた訳やけど、他校やからって人目憚って学校に入るとか無いわ。名前の世話を焼いてるんやから寧ろ良え事してるっちゅうのに自分が疾しく感じて自己嫌悪すら浮かんでくる。
兎に角、名前を連れて早々に帰ろうとドアノブに手を掛けた時やった。


『私がストーカーだなんて酷いですね。私はただ白石君の電話を取り次ごうと、名前さんが居るであろう可能性の高い切原君の教室へ向かったと言うのに』

『その思考がストーカーっぽいんだろぃ?』

『こら丸井!反省の色が見えんぞ!丸井も仁王も名前ももう一時間、座禅を申し付ける!』

『はぁ?何でアタシまで!散々お説教しといて何言ってんの真田!アタシがわざわざ皆に会いに来たって言うのに…そんなだから彼女出来ないんだよ!』

『な、何を言うか!俺は正しき事を言っているだけだ!そ、それにだな、今はテニスが一番であって、い、色恋にうつつを抜かしている場合では、』

『彼女が出来ない負け惜しみだよねそんなの』

『た、たるんどる!!』


ドアを開けるより先に聞こえて来た幾つかの声。
始めにストーカー扱いされてる柳生君に心底申し訳無く思って、それからの罵声には苦笑した。真田君が名前を叱ってくれた(らしい)事に感謝すべきなんか、有難迷惑と受け取るべきなんか…ま、まあ、本人も言う通り間違った事は言うてへんのやろうから一応は有難いと思う事にしよか。

堪え切れずもう1度溜息を溢して、いざドアノブを回そうとソレを握ると、


『名前ちゃん、気になってたんすけど…1週間前にもう浮気しないって公言してなかったっすか?』

『うん、したした』

『じゃあ何でまた此処に?』


今度は切原君が俺自身、引っ掛かってた質問を持ち出した。正直俺やってそれは気になんねん。出て行くんはもうちょい後でもええんとちゃう?
ドアノブから手を離して、代わりに耳を引っ付けた。


『決まってるだろ?俺に会いに、以外に理由なんかあると思うか?それにその格好、ウェディングドレスの代わりだろ?本当可愛い女の子だよ名前は』

『幸村、名前の口が菱形になっとるぜよ』


そや。此処には悪魔と呼ばれる男が居った。表向きは神の子や言うてるけどな、それが別の意味を指す事くらい誰もが知っとるっちゅうねん!せやなかったら何で涼しい顔で五感奪えるかって話しやで。
あかんあかん悠長な事言うてないで早よ出て行かな取り返し付かんなるわ…名前の格好がどうのっちゅうのも気になるし急を要す、正にそれや!
そう思って再度ドアノブに手を掛けて扉を開いた。


『アタシね気付いたんだよ、浮気じゃないって事に!』

「、」

『あ、』

『だってそうじゃん?アタシはただ愛する友達に会いに来てるだけで悪い事してないもん。友達に会うのも遊ぶのもダメって、そんなの小さい小さい!』

『ふむ。一理あるな』

『でしょーっ?たまには真田も話しが分かるじゃん!』


ドアを開けると、見知った顔が並ぶ立海メンバーは視線を泳がせたり瞠若したり舌打ちしたりと多様な反応してくれたけど唯一ドアに背中を向けた名前と真田君だけは俺にも気付かんと言葉を続けた。


『蔵はちょっと頭が堅いとこがあるんだよね…何してもあかんあかんて怒るし健康ヲタクなくせにカルシウム足りてないのかな』

『健康に気を付けているのにそれはたるんどるな』

『人間も動物だって自由が無くちゃ滅入るってもんだし意思を持つって大事な事でしょ?アタシだって同じだよ、赤也とか仁王ちゃんとかブンちゃんとか皆に可愛い可愛いって言われたいもん!』

『うむ。例え失敗しようともそれを経験する事で己の力になるからな。つまり白石はテニスボールより小さい男という事か…』

『蔵って意地悪な小姑みたいだよね、あははっ!ね、赤也?』

『あ、あの、名前ちゃん、』

『うんー?』

「…誰が意地悪な小姑やって?」

『へ、』

「俺にはそう聞こえたんやけど?」


ええ加減、頭に来たで。
黙って聞いとったらテニスボールより小さいだの頭が堅いだのカルシウム足りひんでハゲそうだの。
挙句には切原君に抱き付いて頬擦り?ははぁ、それが名前の言う友情なんか?


『く、くくく蔵…!い、いつから、そこに…、』

「今や。せやけど柳生君が喋った辺りから話しは全部聞いてたけどなぁ」

『だ、だったら、何で、声、掛けてくれなかったの、かなぁって…!』

「友情を育んでるみたいやったからなぁ?ちょっとは待ったろ思ってん」


ポンと肩を叩くと振り返った顔はこの世のモノやないモノを見た様な恐怖を描いてて。視界の隅っこに映る真田君も同じ顔をしてた。


「名前ちゃん。俺が何やって?」

『あ、アタシ、優しくて、格好良い蔵が、世界で1番大好きだって…!』

「せやったら、帰った後もう1回聞きたいなぁ?」

『はははい!今すぐ帰ります!』

「うん。良え子や」


嫌やなぁ?余所の学校に居るからって気持ち堪えて笑顔を作ってる言うのにそない震える必要無いんとちゃう?
見慣れへん制服の理由もちゃんと説明して欲しいし、早よ帰ろか?
そう思って立海を後にしようとしたけどひとつ言い忘れてた事があった。


「真田君」

『な、なんだ』

「今日は時間も時間やから次の機会にするけど」

『う、うむ』

「今度会うた時は俺の毒手、味わってな?楽しみにしといて」

『っ!』


ほなお騒がせしましたと頭を下げると、名前に気の毒そうな眼を向ける中で1人、生唾をぺっぺっと吐き出す顔が見えて少し苛立ちながらも優越を覚えた。

せやけど真田君、しゃーないやろ?
俺ってテニスボールより小さい男やねんもん。


(きえええいっ!今すぐ切腹する!止めるな自害させるのだ!!)
(誰も止める訳無いだろさっさとやれよ真田。俺は気分が優れないんだ)
(きっと真田は次に白石と会った時に菓子折りを持って土下座するんだろう。確率は93%だ)
(お、俺は助かったんすか、ね…)
(真田が全部請け負ってくれたんじゃなか)
(っつーかアイツいつになったら転校してくるんだよぃ!)
(丸井君、私はストーカーじゃありません)
(柳生、根に持つ性格なのは分かったが噛み合ってないぞ…)


(20100715)


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