platonic heart | ナノ


 


 心配する彼氏、



広く浅く(深いの間違いかもしれへんな)、ちょっとばかし気が多い彼女が俺だけを見て生きて行くと誓ってくれた。

ほんまに愛してくれてるんは自分だけやっちゅうのは分かってるつもりやけど、やっぱり他の男にフラフラベタベタされたら気が気やないっちゅうか、不安と嫉妬は自然の感情や。せやから俺は、そう言ってくれた愛する彼女に喜悦を覚えて、もっともっと彼女を大事に幸せにしよって決めたんや。


platonic heart
sweet.1-2 心配する彼氏


「ほな、ちょっと新聞部の奴んとこ行って来るから」

『はーい、早く帰って来てね』

「当然や。名前と一緒に居れる時間は1秒も惜しいんやから」

『もう蔵ってば格好良い!』

「名前も可愛いねんで?」

『知ってる!』

『毎日毎日飽きずに似た様な会話せんとさっさと行きや白石!休み時間なくなるで!』


名前が俺の傍から離れへんなって今日で1週間になる。朝学校へ行く時も、学校に来てからの休み時間も昼休みも、部活中やって学校の帰りやってずっと俺の隣で俺に引っ付いてニコニコしてた。

俺が求めてた薔薇色の青春スクールライフとは正にこれや。心の中でガッツポーズを決める上機嫌な俺に対して、鬱陶しそうな謙也とか、面白無さそうな財前とか、一部何かなぁって思う奴等も居るけど、名前が笑ってくれるなら何も気にならへん。周りなんやどうでも良えっちゅう話しやろ。


「今月はこんな感じで頼むわ」

『おう、やっとくわー』

「任せたで」


そして2限が終わった休み時間、今月発行分の校内新聞の中で自分が担当する記事の本文を、打ち込み担当の同級生に提出に来た訳やけど。
こうしてる間も、名前は俺が居てへんからって寂しがってるんちゃうかなぁとか。
たった2、3分の用事とは言えど拗ねた顔して『遅い!』って言うてくれるんちゃうかなぁとか。
俺にラブメールかラブレターでも書いてるんちゃうかなぁとか。

毎日幸せをくれる彼女を想えば情けないくらいに浮かれる脳内は残念極まりない妄想を描き始める。事実、授業中にメモを回されて赤ペンで好きって書いてくれてたり、部活中にテニスボールを並べてハートを作ってたり、可愛い事ばっかするもんやからそんな頭になってもしゃーないやんな。

ほんま今まで苦労抱えてお説教して来た日々が嘘みたいや。
無意識に緩む顔は自分でも呆れてしまいそうんなるけど気持ちに正直のまま早足で教室へ戻った。


「名前ー!帰ったで――、ん?謙也1人?名前は?」

『腹痛いってトイレに行ったで』

「ハァ、しゃーないなぁ…1限目にコソコソ早弁なんやしてるからやで…」

『女のくせに品が無いでアイツは』

「何やって?名前は十分可愛いのに文句があるんか謙也は」

『ちゃ、ちゃうねんちゃうねん!口が滑った、やない!ちゃうちゃう!そういうところが馴染みやすくて良えって褒めてんねん!』

「……まあ、今日の俺は機嫌が良えから聞き流したるわ」


確かに名前はおてんばで剽軽で手を焼かされる事も少なくはないけど。それでも品が無いとか、謙也に言われるのは俺が腹立つねんて。それ以上に名前はちゃんと自分というモノを持ってるし、可愛いし、繕う事もなくてマイペースやし、可愛いし、可愛いし…。
俺から見れば今の名前にこれ以上求めるもんなんや無いって。謙也は女の子を見る眼が無いんやな。謙也やしな。言うても謙也が名前を本気で好きになったりしたらそれはそれで容赦無いけど。

そんな事を考えながら謙也を見てると3限目を告げるチャイムが鳴って国語教師が入って来た。


「どないしたんやろ、そんなにお腹痛いんやろか…」

『弁当に当たったとか』

「そら無いわ。朝コンビニに買うたおにぎりやねんもん」

『せやったら白石、また久しぶりの家出やったら笑えるで!』

「そら無いわ!………そら無い、」


、んか?
無いって、言い切れるんやろか……

そういえば昨日携帯の画像データ見ながら『赤也元気かなぁ』って言うてへんかったっけ。最近大人しく良い子してたから写メ削除しろと迄は言わんとメールくらいしても良えねんでって言うたんや。
広い心を持って、彼女を想ってあげようっていう俺の優しさをアピールしてみた、やんな。


『し、白石?冗談やで!俺は冗談言うたんやで…?』

「…………………」

『いいい今の名前に限って無いで!大丈夫やって!』

「…せやな。ほんまにお腹痛くて苦しんでるかもしれへんし、信じるわ」

『そや!トイレで唸っとるかもしれへんからな!』


言うんやなかった、後悔一色の謙也を前に厭な胸騒ぎがするけど、とりあえずは信じて待ってみようと国語の授業を受けた。
それでも、3限が終わっても空席に名前が座る事は無かったけど。


「……………」

『し、白石?眼、座っとるで…』

「気のせいや」

『や、あの、名前は保健室で寝とるんかもしれへんし…!お、俺、探しに行くで!』

「要らん。柳生君に電話するわ」

『せせせせやけど白石、』

「もし違てたら俺は名前に土下座でも何でもする」


寧ろ、名前が立海に居るっちゅうのは行き過ぎた杞憂で土下座したい。そう思ってた。
名前はもう昔とは違う、今は大丈夫や、胸騒ぎを綺麗さっぱり消し去りたかったんや。

せやけど柳生君に繋がった電話の向こうでは、


《や、やだ!無理!まだ仁王ちゃんにもブンちゃんにも会ってないんだからー!!》


良く知る声が耳に届いて、何かの線が切れる様な音がした。


「謙也!!何でお前は追い掛けへんかったんや!何の為のスピードスターやねん!この台詞も何回言わせんねん!」

『け、結局俺のせいにするんかい!!』


名前の忍耐力はどう頑張っても1週間が限界で、人の性格はそう簡単に変わらへんのやって携帯を持つが震えた。
そういう俺自身もまた立海へ足を向ける途中、何て叱ってやろうかと考える辺りお互い成長せえへんのかな。


(20100711)


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