愛する彼氏ただ1人、蔵だけを見て蔵一筋で生きて行く。
そう告白してから数日、アタシは漸く気付いた。
「っていうかどう考えても浮気じゃないし」
platonic heart
sweet.1-1 シックネス彼女
午前11時前、蘭麝を運んで来る心地良い風の中では必然と足は軽くなる。スキップみたく軽快に浮かれ足で教室のドアを開ければ見慣れない景色が新鮮で、クルクルと宙を泳いでいる様な髪の毛が見えたらその背中目がけて飛び込んだ。
「あっかやーっ!」
『うわ!え、え?え、ちょ、名前ちゃん!?』
「へっへー、可愛い名前ちゃんですよー」
『この会話少し前にした気がするけど…って、そうじゃなくて!』
「うーん?」
『何で此処に居んの!俺の教室に居るって、は、何で?学校は?!』
首を思い切り捻って背中に張り付いたアタシを映すとめちゃくちゃ変な顔して挙動不審。赤也と話しをしてたらしいクラスメイトの子も目ん玉ポロリしちゃいそうな驚きっぷりだけど、別に関係無くて。
上手く喋らんない赤也が可愛くてドッキリ成功じゃん、って歓喜に浸ったら初めての制服姿をターン付きで披露してあげた。
「どう?可愛い?似合ってる?」
『めちゃくちゃ可愛いっす!ヤバイっす!惚れるっす!って惚れてんだけどさ』
「やっだー!赤也だって可愛い!」
アタシも初めて立海の制服着たけど意外とイケてんじゃない?なんて自分で思ったり。だけどやっぱり誰かに言って貰える方が嬉しさは何倍にも跳ね上がる訳で、素直な赤也が愛しくなる。
せっかく離れてあげたのに癖っ毛を押し付けてくる様に抱き締められたら擽ったいってば!
『んーありがと、でも何で立海の制服着て…まさか前言ってた転校って冗談じゃなかったとか…』
「そんなまさか」
『へえ、名前が居るってホントだったんだ?』
『っ痛、ゆ、幸村部長!いつの間に…!』
身体中の骨がミシミシと悲鳴を上げる音が聞こえてくると途端力が揺るまって、コロコロ変わる表情が憂愁になると赤也が消えて視界はゆっきーで埋められた。あれ、赤也がドアの所まで飛んでる…
『名前、久しぶり』
「そうでもないと思うけど…」
『いつ来たんだ?』
「ついさっき。っていうか今」
『ハハッ、俺が手を出す間でもなく転校してくるなんてやるじゃないか。可愛いと思うよそういうとこ』
『ゆ、幸村部長!名前ちゃんが居るって知ってたんですか!?』
だから転校はしてないのに、突っ込む間も与えてくれないのは相変わらず精市らしい。赤也は赤也でドアに頭をぶつけたのか、髪の毛を掻き分けるみたく頭を撫でてこっちへ戻って来て、それがまた可愛らしいったら!
『知ってるっていうか植物の噂だよ赤也』
『え、植物?風じゃなくて、すか?』
『馬鹿だな赤也は。植物だって言ってるだろ』
『そうなんすか…』
「やっぱり凄いよねゆっきーは…」
幾らガーデニング好きだって言ってもまさか植物と会話する事が出来るとは。例えそれが本当は風の噂だとしてもアタシはリアルに今来たばっかりで噂なんか立つ暇も無いのに。これだから怖いもの見たさに精市には会いたくなる。
感心というか、感服というか、とにかくそんな思いで精市の笑顔を見つめてると教室のドアが開く音が聞こえて。
『名前さん。いらっしゃいますか』
「へっ!」
眼鏡の位置を正しく直しながら声を掛けてくるジェントルマン。
まさか柳生まで精市と似た能力でも備えてんの…?
ここまで来ると、わざわざ学校抜けて立海まで来た甲斐があった。そう思ったのも一瞬だけで、アタシを見付けた柳生は直ぐに携帯を差し出してくる。
もしかしなくともこの展開って…?
『名前さん、白石君からお電話です』
「や、やっぱり…!!」
『怒っていないから出ろ、と仰ってますが』
「や、やだ!無理!まだ仁王ちゃんにもブンちゃんにも会ってないんだからー!!」
柳生に変な能力が無かった事が残念なのか安堵すべきなのかは分からないけど、とりあえずアタシは赤也の教室を出て3年校舎へと逃げ出した。
だけどね、言っておくけどこれは浮気じゃないよ、ただ愛する友達に会いに来ただけだもんね。
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前回同様、1話に2つ〜4つの話しを詰めてヒロイン側と白石側の状況を書いていきたいと思います。
相変わらず寒いギャグの様な内容になりますが温い目で見てやって下さい…!
(20100709)
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