platonic heart | ナノ


 


 最大のピンチ



変に興奮してたとは言え、らしくも無く失態を犯した…基、名前を怒らせてしまった日、メールを入れても返事は無く、電話をしても電源は入っておらず、家に押し掛けても彼女のお母さんに苦笑され会う事は出来ひんかった。何やってるか分からへんなんてお母さんから聞いた時は心臓が止まりそうやったけど一応家には居るっちゅう事で大人しく帰ったけど…。
翌日も土曜日で学校が休みやったから良かったものの部活は勿論普通に行われてて、やっぱり姿は見せてくれず連絡やってつかへんままやった。

普段の家出なら最終的に連絡はつくし迎えに行けば謝ってくれる。呆れながら許してたとしても、名前が笑ってたらそれだけでほぐれてたのに。
せやから、声も聞かれへん、会う事も出来ひん、今のこの状況は罪悪感が拍車を掛けて確実に俺を追い詰めてた。


「………………………」

『白石ー!ボール行ったでー!』

「……………………………」

『え、』


ポコン、頭からそんな音が骨を伝って聞こえたら漸くボールが頭にぶつかった事が分かった。そやな、今は謙也と打ち合いしてたもんな、そらボールも飛んでくるやんな。


『ちょ、白石…大丈夫なん?』

「あー…大丈夫やで、怒ったりしてへんし、よくある事やんなー」

『ええ…!』

「テニスしてるんやからボールくらい当たるわーはははっ」

『うわ、あかんわ白石がほんまに壊れとる…!』


ネットの向こうで謙也が青い顔してるけど体調悪いんやろうか。最近部活も休み無かったしな、疲れでも溜まってるんかな。


「謙也」

『な、なに…?』

「疲れてんのやったら早退してええねんで」

『―――――っ!?ざ、ざざざ財前!!白石が、白石がとんでも発言してんねんけど!助けてー!!』

『確かに相当キテますね、鬼部長が帰ってもええとか』

「鬼って何やねん、俺はどっからどう見ても素朴で質素なしがない男やでー…」

『『…………………』』


なんや2人して鳩が豆鉄砲喰らった様な顔してるけど訳分からんわ。
フッ、俺やって聖書なんて呼ばれてても破れてしまえば傷んで完璧じゃなくなるって話しやろ。っちゅうか完璧って何?名前が居らんと何も手が付かへんのに完璧もクソも無いやろ…。
たった1日名前を絶っただけで萎れてしまうなんや謙也以下やで…。

あー今頃何処で何してんのやろ。
そう空を見上げた瞬間。


『あ』

『、あーーっ!!!し、ししし白石っ!』

「ん?いきなり大声出して何――――」


謙也の煩い声で振り返ると、テニスコート脇のベンチには影があって。空から視線を移した所為で黒い影が鮮明になるには少し時間を要したけど、あれは……名前?
俺が彼女の影を間違える筈が無い。


「―――、名前!」


やっと来てくれたんや、俺を許してくれたんかは定かやないけどやっと逢うてくれる気になったんや!
こんな艱苦な時間が続くならいっそ家出して浮気してくれてる方がよっぽどマシや、そんな大袈裟な冗談を浮かべながらそっちへ走り出すとベンチに正座した姿が飛び込んで来る。何で、正座?


「名前、あんな、」

『すいませんでした!!』

「っ、」


正座した彼女はそのまま深く頭を下げる。一瞬それが何の意図なんか理解に苦しんだけど俺は閃いた。
幾ら原因が俺で、今回は非がないとは言えど名前が今までやって来た家出が根元や。とりあえず怒ってはみたものの、自分の過ちに気付いたんやな?そして昨日今日とずっと俺をシカトしてた事に反省したんやな?
聖書と呼ばれる完璧な俺は全てを理解した。せやな、この俺が名前について分からんなんて有り得へんし。家出ん時も直ぐに場所分かってまうし。

もう今回は仕方ないな。
色々心配したし、夜も寝られへんくらい精神的に参ってたけど責める気にはならへん。優しく彼女を抱き締めようと手を伸ばした。


「もう、ええから顔上げ―――」

『ついにやってしまいました』

「、え?」

『アタシ、友達と遊ぶの好きだし大事にしたいと思ってた…浮気しない事がアタシのモットーだった』

「、そう、なん?」


後ろで何やら『嘘や』『家出は浮気とちゃうの』とか聞こえて来るけどそれは今はシカトしよう。せやけどやってしもたって…


『蔵、』

「、」

『ごめんなさい!アタシ浮気してしまいました!!』


再度ベンチの上で土下座する彼女に、俺の手は触れる事なく宙ぶらりんになってしもた。
だって、今、なんて?
うわ、う、浮気?浮気って、言うた?
聞き間違えやん、な?


『っていうか、進行形で浮気です』


そんな阿呆な!



(20120925)




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