platonic heart | ナノ


 


 いつも通り



えー俺です。忍足です。忍足謙也です。
今日、白石と財前が試合してた隣で俺も師範と打ち合いをしておりました。まあ、遊び半分っちゅう気持ちが無かったと言えば嘘になりますが師範とはダブルスを組んでパワー強化をして来た元パートナーな訳です。(VS不動峰参照)
今でも俺はパワーアンクルを外さず鍛えてるし、白石と迄は言わへんでもオールラウンダーを目指して、パワーのある強いボールも打ち返せる様師範の波動球を受けてた訳です。
そんな健気で儚い気持ちを聞けば普通なら感化されるというか、少しくらい同情の余地があると思うのが一般的な人間の心理では無いのかと俺は思う訳です。

しかし、そんな俺の純真無垢な思いは白石という性の悪い男によって打ち砕かれ、正に今、土下座なんかをさせられている訳です。


「す、すみませんでした…」

『はぁ?何やって?声が小さくて聞こえへんなぁ!』


何処のチンピラか、寧ろヤンキーもヤクザも顔負けな絡み具合は最早この世のものとは思えへん。


「せ、せやから謝ってるやろ!何回謝れば気済むねん!」

『…ハァ?それが誠心誠意持って謝罪する奴の言葉か?はー信じられへん有り得へん考えられへん!ごめんで済めば警察は要らんってのが常套句やろ!』

「な、」

『蔵、もう良いよ?そんなに言わなくても、』


保健室で貰って来たアイスノンをデコに当てて白石を止めてくれる名前はいつになく優しい。普段のチャランポラ…やなくて、意味不明な言動行動してる姿からは想像出来ん程に神々しく見える。


「ほらな!名前もこう言うてるんやからもうええやん!実際傷も無くて大丈夫やった訳やし!」

『阿呆は黙っとき!!…あんな、名前?』

『うん』

『俺は名前が可愛くて心配でしゃーないねん。例え外傷無くても脳に何かあったらあかんしな?』

『うん…』

『それに謙也も多分救いようの無い究極の馬鹿では無いやろうから二度とこんな事は無いと思うけど、やっぱり悪い事は悪い、反省と今後気を引き締めて貰わなあかんやろ?』

『うん』

『俺にはこれくらいしか出来ひんねん…痛みを変わってやりたいのに変わられへん、時間を戻してボールから庇ってやりたくてもそれも叶わん。せやったら名前の為に俺が出来る事は知れてる、加害者を踏みにじる、踏み詰る事だけやねん!』

『蔵…!!アタシの為にそこまで…!本当に嬉しい』

『それなら良かった、俺も嬉しいで』

『うん…だけどアタシ大丈夫だから。ちょっとオデコが痛いだけだし、球技してる中に居ればボールが飛んでくる事も予測して自分でも気を付けなきゃいけなかったんだもん。だから、ちょっとオデコ痛いけど謙也だけが悪い訳じゃないし、やっぱりオデコ痛いけど謙也も謝ってくれてるんだから、本当にオデコ痛くても謙也を許して、どうしようもなくオデコ痛くてもアタシだって反省しなきゃ!』

『名前、どれだけ良え子やねん…!俺感激や!』

「……………………」


えっと、何やねんこの大袈裟な安い喜劇は。
とりあえず名前が神々しいとか撤回や!あんだけ痛い痛い言われたらフォローしてくれてるより悪意やん!めっちゃ俺ん事責めてるやん!素直にキレて来ん分もしかしたら白石よりタチ悪いんちゃうか?ボールぶつかって性格変わった言うても遠回しクドクドネチネチ度上がって最悪前より酷なったんちゃうんか!?


『まあ、せやな…名前もこう言うてくれとる訳やし謙也、頭上げてええで』

「そらどーも…」

『せやけどほんっっっま今後は気ぃ付けや?』

「んな何遍も言われんと分かってるって…」

『ならええねん。ほな名前は帰る支度し?今日はもう部活も終いや!』

『うん分かった』


土下座のお陰で足に纏わり付いた土を払って、これで漸くあの悪魔カップルから解放されると思うと安堵で心が躍る。
今日はとことんツイてへんかったわ、それを込めて伸びをすると、さっきまで鬼の形相してた筈の白石が途端締まりの無い何とも気持ちの悪い顔になってた。


『あーほんま可愛いなぁ名前は!何であんな愛らしいんやろ…なあ聞いたやろ?計算も含みも何もない純粋な大好きって!財前も謙也も聞こえたやろ?!』

『うわ、ほんまにウザイしキモイすわ』

「は、ははは…」

『財前が嫉妬したなるんも分かるけどな、あれが本来の名前の姿やっちゅー訳やなぁ!家出もする必要無い言うてたし、俺さえ居ればええねんなぁ!愛って素晴らしいわ!』

『マジでウザ』

「あんな事の後やから流すだけで済ませたかったけど俺も財前に同感や…」

『せやけど部長、ウザイのはともかく部長はそれでええんです?』


浮かれに浮かれて痛々しい白石は見るに耐えれへんと正直俺も思ったけど。
今までが今までだけに浮かれてしもても仕方無いんかなぁて理解出来ひん事も無い。俺は誰かさんと違て優しく理解力のある男やからな!
でも、それを打ち壊す様に制止させたのは財前で、白石も身体を止めた。


『何の話しや財前?』

『頭ぶつけたお陰で部長が望んでた通りの人になったかもしれへんけど、それってほんまに名前先輩なん?』

『、』

『変わってないとこもあるんやろうけどあんな急に大人しなって人格変わって、それでも何の抵抗も無いんです?』

『…………………』


俺はどちらかと言うと恋愛のいろはなんや分からへん方やから財前に言われる迄気付けへんかった。白石は分かってて黙ってたんか、浮かれ過ぎて気付いてへんかったんか、どうなんやろうか。
名前やってどうしようも無いとこ多いし家出するし浮気性やし適当やけど、やっぱりそんな短所含めてアイツやねんもんな。
そら白石やって嬉しい反面、抵抗やってあるやろ。


『…財前の言いたい事は一理ある。それが当然やねん。せやけど俺はどんな名前やって好きになりたい。一緒に居りたい。その気持ちも前と変わらへんねん』

「白石……」

『…………………』


疑った事なんか無い、でも白石の情愛のでかさに、深さに、ほんまにアイツが好きなんやっていうのが伝わって来て、こっちまで感慨に耽けりそうになった。
…のに。


『せやけど、そうは言うてもこれで良かったと思うのも本音や』

「え、」

『分かるやろ?俺が今までどれだけ苦労して来たかお前等なら分かるやろ!名前の気分と機嫌がいつ変わるかも分からへん、さっきまでそこに居ったのに急に居らへんなって家出する…毎日毎日1分1秒も俺は気が抜けへんねん!どんだけ叱っても反省のフリだけして悪びれ無いしやな、寧ろ家出して何が悪い・何の文句があるんやって思てるやろ!?文句のひとつもある、ありまくりやっちゅーねん!』

「し、白石、」

『自分やない男に会いに行って遊んで来て“良かったなー楽しかったんやなーまた行って来なさい”なんて言う彼氏が居る訳無いやろ!!嫉妬する以前にそんなもん常識や!愛には人それぞれ形が違う言うたって限度があんねん…社会人の付き合いならまだしも俺等は学生やねん!学生なら学生らしく彼氏しか見えない〜くらいなってもええんちゃうの!?そこまでならへんでも彼氏からの着信拒否して小姑やらストーカーやら言うの間違うてるやろ?挙げ句にはそんな事しといて迎えに来い?はああ、俺は名前の召使いか執事か何かですか?そら可愛いから色々世話焼きたくなるんも俺の性分やで?!それでも!もっと全うに生きて欲しいねん…!!』


言いたい事は言うた、そんな様子でゼエゼエ肩で息をする白石に何て声を掛けたらええのかも分からず。
あれやな、やっぱストレス溜まっててんなって、同情だけは沸き上がった。
せやけどその瞬間。白石の後方からドス黒い空気を感じて俺は背筋が凍てついた。


『まあ、俺も名前が好きで可愛いから許してしまうし、それもあかんのやけどな。せやからこれを機に一般的な彼氏彼女になって、元の性格に戻ってもコレが正しかったんやって思わせる作戦や!』

「あ、し、ししし白石、そのくらいにしといたら、どうや…?」

『なんやねん謙也。たまには俺の鬱憤聞いてくれるくらいええやろ』

「いや、そういう事やなくて、」

『部長。後ろ後ろ』

『は?後ろってなん―――――』

『へええ?蔵にとってアタシは鬱憤が溜まる元だって言いたいんだ?』

『!?』


次第に近付いて露わになれば、何処かで聞いた妖怪のヘビ女の様に怒髪した、名前が仁王立ちしてて。
白石が怒ってるのは何度も見て来たけど、名前が拗ねるんやなくこんな風に空気を凍らせる様な怒りを見せるのは初めてやったから、ぶっちゃけこのまま世界が破壊されるんやないかと思ってしもた。


『、名前!何で…っちゅうか大人しい子になったんやんな?!』

『そんなの演技してみただけだもん』

『演技…?』

『今日はアタシが家出しない記録更新だとか何とかで蔵がはしゃいでたから!だからアタシも家出は我慢して、今日はお利口になってあげようって思ったの!本当はボールぶつけられて謙也に文句言いたかったけど、それも我慢して良いタイミングだって思ったの!蔵が喜んでくれるって信じてたから!』

『名前…』

『それなのに何?アタシは普通じゃない?常識が無い?蔵を召使いにしてる?だから大人しいままで良いって…?』

『や、それは言葉のアヤっちゅうか、誤解してる事があるからな、ちゃんと話し合いしよ、な…?』

『する訳無いじゃんばか!!アタシ、家出するから絶対追い掛けて来ないで!迎えに来たって知らないから!今すぐ許す気にならないし蔵が反省するまで口も訊かない!!じゃあバイバイ!!!』

『名前――――』

『さよなら白石君!』

『――――……………』


うわ…これは、あかん。白石が悪いからなおのことあかん。(元々の原因はアイツなんやけどな)
今もし追い掛けたところで逆効果なんやろうけど、こうして家出するのを見てるだけしか出来ひんのも、キツイやろうな。


「白石、まあ、名前も時間経てば冷静になるやろうし、」

『お前の所為や』

「え?」

『謙也が名前にボールぶつけたんがあかんねん!謝れ!も1回俺に謝罪して何とかせんかい!!』

「け、結局俺なん!?」

『当たり前や!!!』

『やっと面白い事になりましたね』

『財前も黙っとき!!』


いつもなら白石がこんなミスする筈無いけど、やっぱり浮かれて気抜けてたんやろな…記録更新目前とアイツの変化に。
せやけど俺、ほんまツイてへん。

そして電源を切った名前は翌日も学校に来なかった。(て、あかんやろ!俺の身がどうなんねん!!)



(20120829)


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