platonic heart | ナノ


 


 俺の結末



『遂に認めたんすかー』

『ちょ、財前!』

『謙也先輩やって浮気や浮気やっていつも言うてたやん』

『そやけど!浮気やけど認めたらあかんやろ…!』

『はぁ?どっちなんすか、そやって優柔不断やからヘタレなんすわ』

『うっさいわ!っちゅうか相手誰なん…?まずそこが問題やろ…!』

『俺すわ』

『阿呆か!!』


後ろから面白くも何ともない漫才の様な会話が聞こえる。いつもの様にさらっと流すか、グラウンド走らせるかやりたいのに上手く思考が回らへん。

うわき、浮気、ウワキ…
その単語が脳内で行ったり来たり駆け巡る。だ、だってな。フラフラ家出してもあんだけ浮気とは違うって言い張っとった名前がやで。浮気って言葉を出したら違うってキレてたのに、その本人が浮気って言うたら間違えなんか無くて確定やんか!!
しかも進行形って何やねん!


『ごめん、蔵……』

「いや、ちょ、ちゃんと説明してくれへん?状況が掴めへんわ…」

『うん分かった』


そこで漸く顔を上げて視線が合うと、彼女の眼には憂色と罪悪感がいっぱいの色で、それでいて真っ直ぐ俺を映してくる。
そんな真っ直ぐな眼を見ていられへんなって、俺は俯いた。


『金曜日に蔵と喧嘩したでしょ?喧嘩っていうか蔵がアタシの悪口言うから怒ったんだけど…』

「…………………」


その帰り道、出逢ったんだと彼女は言った。
初めは格好良いなって思う程度やったのに話せば話す程惹かれてのめり込んだらしい。部活の事も時間も忘れて、携帯も電源を切ったままやった事にも気が付かんとずっと一緒やった、なんて。
頭が付いていかへん。


『心の浮気はどうしょうもないすね』

『ざざ財前!そんな事言うなや!』

『せやけど好きになったんなら許す許さへんって問題ちゃうと思うんやけど』

『そ、それは……』

『で、その男とはどういう関係なんすか?』

『どういうって、言われても…』

『身体の関係は無いんすか?付き合ってるんです?』

『あ……う、うん…付き合ってるっていうか、結婚、した』

「!?」

『ハア!?』

『そらまた想像以上すわ…』


財前が解いて行く真実が、自分の予想を遥かに上回って上手く呼吸が出来ひん。
流石の財前やって面を喰らって顔を固くさせてる。


『勝手な事して、ごめんなさい…』


鼓膜に届いてくる彼女の声は風にも消されそうな儚い色。きっと、俺に遠慮と懺悔の思いで潰されそうなんや。
何が名前の事は理解してる、や。そういう自己中心的な考えしてるからこうなんねん。まあ、せやんな……もしかすると、せやから家出とかしてそういうのを消化してたんかもしれへんやんな。
それなら俺は………


「………名前」

『、』

「好きにしたらええ」

『え、』

「名前がしたいようにしたらええよ、俺はそれに従うから」

『ちょ、白石!?お前何言うてんねん!それって別れるって言うてんのと変わらへ――――……』


引き止めてくれる謙也に無理矢理な笑顔を作ればそれ以上は言わず口を閉じてくれた。あんまりハッキリ言葉にすると俺にはキツイから。


『ま、待ってよ!アタシ蔵と別れる気なんか無いよ!?』

「え、」

『そりゃ土方さんとは浮気したし結婚もしたし今も好きだけど…!だけど次は沖田さん好きになるし、それでも蔵が好きな事は変わらないもん!!』

「そか、それは俺にとって嬉しい言葉やけどやっぱり世間的には――――、」


て、待って。ちょっと待って。今の台詞巻き戻して。
土方さん?土方さんて、ダレ?
そして次は沖田さんてナニ?
土方と沖田って、それって偶然?動乱やった幕末の歴史で有名やった人な訳ちゃうやんな?今は平成やろ?


『…名前先輩、それって新撰組の話しすか』

「そこ!俺が必死になって思案中やのにアッサリ言わないで!」

『だって面倒臭いし』

『え、何の話しやねん!俺にも分かる様に説明して!』

「名前、」

『っていうか何、今更』

「え、」

『アタシ言わなかった?帰り道のゲームショップで“濃桜鬼”のポスターに一目惚れして徹夜で攻略してたって』

「言ってへん!全くこれっぽっちも聞いてへん!!」


通りで話しが突拍子無いと思ったんや。結婚とかな、1日2日で俺以外の男とか有り得へんもん。
ほんま、心臓に悪いわ。


『なんやゲームの話しか…人騒がせな奴っちゃな』

『何それ!アタシ本気で謝ってんのに!』

「名前ちゃん、その浮気は許す。全然大丈夫やから土下座も止めや?」

『じゃあ、』

『せやけど部長、別れるんちゃうかったんすか?』

「はぁ?俺そんなん一言も言ってへんし」

『(いらっ)』

「俺が別れる訳無いやろ?謙也が早とちっただけやん。そもそも名前が俺無しで生きて行けるとか思ってへんもん」

『うわー激しくウザイ』

『じゃあじゃあアタシの浮気は公認て事でこれからも没頭して良いんだよね?!』

「思う存分やりなさい。但し!」

『な、なに…』

「家出はあかんよ?」

『あはは!まっかせて!』

「約束やからな」

『うん!』


こうして俺等カップルの危機はいつもの茶番として幕を閉じた。
謙也は呆れながらも安堵したみたいやったけど、財前だけは苛々をフェンス蹴って晴らしてた。いつもならそんな行為もお説教もんやけど、フッ…今日のところは許したろ。

それでもやっぱり、可愛くも剽軽な名前が好きならばこれからは俺自身も改めるとこがあるって考えなあかんのかなって思わされた日やった。
これもそれも愛の為や。



(20120926)


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