platonic heart | ナノ


 


 彼氏が喜んだ



朝練を終えて授業を受けて、昼ご飯を食べたらまた授業、そして今日も平和に部活を迎えられた事に俺は手を合わせて感謝した。この世界に神様なんや居るかどうかは分からへん。せやけど残り数時間、それさえ乗り切れば最愛の彼女が家出しなかった記録が更新される。
これまで1週間しか保たへんかった魔の記録が1週間プラス1日になる訳や。これを神様に感謝せずには居られへんやろ…!!


『あー、部長大袈裟すわ』

「財前。俺の大事なモノローグ勝手に聞かんといて」

『ほな声に出すん止めて貰えます?謙也先輩みたいで鬱陶しいし、声に出したらモノローグ言わへんので』

「小説っちゅう時点でモノローグちゃうけどな」

『自分で言わんといて下さい。しかも小説と呼べるかも定かやないし言うたらお終いやろ…』


なんやウダウダ正論紛いな事を言うてる財前やけどアイツやってなんだかんだでほんまは喜んでるに違いない。家出するなら自分のとこ来てって言うくらいやし、財前やって名前に構って貰えて幸せなんやろ?
まあ、そうは言うても今週は意外なほどヤケに俺に引っ付いてたからな、財前もそんなん思う暇無かったんやろうけどな!はっはっはっ!


『ねえねえ蔵ー!課題全部分かんないんだけどー!』


優越を感じてるとベンチに座ってた名前に早速名前を呼ばれる。
部活時間に課題やってるとか、その課題すら俺にさせようとしてるとか、俺が財前と試合中やとかこの際どうでもええ。大事なのは今此処に名前が居て、他の誰でもない俺を名前が呼んでるっちゅう事や。
ああもうそれだけで可愛過ぎやし、幸せやし、癒やされるし、部活が終わったらケーキでも食べさせてあげなあかんな。
そう思いながら振り返って名前の方へ走った瞬間に事件は起こった。


「名前ちゃーん、何が分からへんのかな――――――」

『ゔっっ!!!!』

「っ!?」


俺のバックに花を咲かせて返事をすると、物凄い勢いで名前の顔面にホーリーワンしたテニスボール。
聞いた事も無い様な鈍くドスの効いた彼女の呻き声を耳にすると、俺が驚いたのと同時に息が止まった様な謙也の呼吸が聞こえた。


「………謙也?」

『、ちゃちゃちゃちゃうねん!!これはやな、師範の波動球の威力がとんでもなくてやな、俺がノーコンな訳でも##name1##に向けて打った訳でもなくて…!』

「当ったり前やボケェ!!これでわざとや言うたらお前のクルクルパーなひよこ頭むしり取ってセメント詰めにして大阪湾沈めたるわ!!ついでにお前はノーコンや!足が速いだけのアウトオブテニスや阿呆!!」

『し、白石、誰が喋っとるか分からへん物言いと、小説で良かったねなモザイク掛けなあかん顔は止めた方がええんちゃうかなぁて…ほ、ほらあれや、好感度とかファンの為にやな、』

「じゃかーしい!!阿呆言うてたらとりあえず便器に顔突っ込ませるで!?」 

『白石あるまじき台詞や…!』

『それより。部長、名前先輩はええんです?』

「はっ、せや!こんなチンチクリンな鳥の巣に付き合うとる場合ちゃう!」

『幾ら俺が悪かった言うてもほんま酷過ぎるっちゅうねん俺の扱い…』

「名前!大丈夫なん!?痛いやんな?謙也が金ちゃんの大車輪受けても全然足りひんくらい痛いやんな!?」

『ちょ、それ本気で言うてるやろ…!』

『…………う、くら…?』

「名前!?」


見たところ額が赤くはなってるけどひとまず傷は無い。女の子の、しかも俺の可愛くて美人で可愛くて愛嬌ある彼女の顔に傷なんや出来たら謙也殺しても足りひんけど、意識もあるみたいやし一応は安心した。
せやけど……


「良かった…ほんまもう俺心臓止まりそうやったわ…名前に何かあったら生きていけへんし…」

『の割に謙也先輩殺る気満々でしたけど』

『これから俺どうなるんやろ…』

「大丈夫やで?あそこで小さなっとる鳥の巣は俺が後で始末したるからな、とりあえずオデコ冷やそな?氷取って来るから」

『蔵、顔が痛いよ、だから何処も行かないで…』

「氷取りに行くだけやし冷やさな後で酷なっても困―――」

『嫌だ…1秒も離れたくない…蔵が良い、蔵が傍に居てくれなきゃアタシ、泣いちゃう…』

「―――!!!」

『………………………』

『、えー…………』


なんや、なんやねんこれは。
一体何が起きた。
いつものパターンならここでブチ切れる→暴れる→謙也だけやなく皆に八つ当たり→そのまま帰る→と言いながら家出する。っちゅう事に成り兼ねんのに…!!
まさか、オデコぶつけた事によって元々の名前可愛さがウルトラグレートデリシャス倍増されてる…?


「、名前、しょ、正気なん?」

『何でそんな事言うの?酷い…』

「いいいいやな、ただ、オデコぶつけたから大丈夫なんかなって心配、しただけやで?」

『…………嬉しい。蔵は優しいから大好き』


ドッカーン
これが小説やなく漫画やったなら俺の背景には火山噴射の絵とそんな効果音が付いてるんやろう。
だってな、こんな汐らしく嬉しいとか、大好きとか、心臓が爆発するっちゅうねん…!こんな感じな名前を見た事ある?いいや俺は無い。
例えば家出と引き換えの計算した好きとか、お説教を免れる為の可愛いフリした好きとか、茶目っ気みたいな好きとか、いつもはそんなばっかやった。そりゃ勿論それでも十二分に可愛かったし、好きって言うてくれる分には満足してたけど…


「名前、せやったらもう、家出したりせえへん…?」

『家出?』

「いつも他の学校遊び行きたいって言うやんか?」

『どうして?アタシ蔵と一緒に居られたらそれだけで幸せなのに他の学校に行きたい理由なんか無いから言わないよ?』

「名前………!!」

『うわー至上最高に面白無い展開すわ』

『何のこっちゃ…!』


漸く、漸く俺にも春が来た。
とっくに春は来てたけど本物の春が来た様な気がする。俺はこの日を、この言葉をどれだけ待ってたか分からへん。気が引けるのに毎日毎日監視みたいな事して、それでも俺の眼を擦り抜けて出て行く名前に呆れて悔しくて妬いて切なくて。
せやけどそんな日々とはもうおさらばでええねんな?俺はこれから記録更新なんて数えへんと何の心配もせずハッピーラブラブライフを送れるんやな?

…やっぱり神様は居ったんや。俺の感謝と祈りを聞いてくれてたんや!


「名前、離れたないのは痛いくらいに分かった。そやけどオデコは冷やさなあかん」

『…でも、』

「せやから離れんと一緒に保健室行こな?」

『うん!!』


嗚呼、今日という日に乾杯。


『……っちゅう事は俺って良い働きしたって事でええねんな、良かったほんまに…!』

「それとこれとは話しが別やで阿呆ンダラ」

『え!』



(20120828)




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