platonic heart | ナノ


 


 小言を零す男



仲直りした後の甘い空気は最高、
せやけどそれだけでは終わらへんのが日常。


platonic heart
sweet.3-3 小言男


まさか謙也に背中を押されるとは思ってへんかった。っちゅうかちょっと…自己嫌悪。謙也が言うた事が事実であったら俺の勘違いで名前に嫌な思いをさせてしまった訳やし、普段からの積み重ねで不安要素が渦巻いてたからって余裕無さ過ぎ。結局名前は俺やないとあかんて分かってた筈やのに最低やんなぁ……。
言うて、とにかく確認してからの話しやねんけど。

名前が意地張ってた理由もソレやとしたら辻褄が合うし、ここまで来れば単なる虫刺されであって欲しい。後で謙也に俺が昼飯奢ったらあかんかな、そんな事を考えながら名前の元へ走った。


「名前、」

『何ですか明日から他人になる白石君』


このタイミングで家出してたらどないしよか思たけど、珍しく廊下で1人やった彼女はぼんやり空を眺めてた。雲が分厚い不穏な空に何を考えてたんやろか、心臓に小さい痛みを抱えて声を掛けたけど振り向けばやっぱりコレや。


「……それ止めへん?結構傷付くんやけど」

『傷付く理由が分かんないんですけどー!白石君はアタシなんかと別れたいんじゃないですかぁ?』

「っ阿呆!そんな訳無いやろ!」

『、』


ほんまは冗談でも言いたくなかったのに。それくらい名前やって分かってるんとちゃうん?それともそう思うのは俺だけなん?
あんな言い方したのも自分、先走ってしまったんも自分、全部は俺が悪いねんけど…名前は簡単に頷いて、それで終わっても良えの?


「ちょう、首貸して」

『え、首?』

「ええから」

『ちょ、なになに!ここ学校だよ!あ、ああアタシは別に良いけど最後までやらかしちゃうのはマズいんじゃないの、ね、く、くくく蔵!?』

「……………」


腕を引っ張って右手は腰、左手は顎を持ち上げて固定する。髪も顔の影も避けて顕になった首筋は綺麗に赤い跡があった。

……せやけど案の定、ぷっくり膨れ上がって虫が噛んだであろう2つ穴までご丁寧に残ってる。なんや、ほんまのほんまに虫刺されやん…しかもダニって。
最悪過ぎる落ちやろ。


『ちょっと蔵聞いてる!?』

「…やっと言ってくれた」

『は?』

「白石君やなくて蔵って」

『―――――』


ザワザワと喧騒の止まない校内は当たり前に俺等の横を生徒が通り過ぎる。せやけど誰に見られようが、誰に噂されようが、俺は名前を離す気にはなれへんかった。
ぎゅっと抱き締めて、もっと力を入れてしもたら骨まで折れる、とは言わへんけど怒られてしまう事は確実で、それでもほんの数時間すれ違ったのを埋めたくて仕方なかったんや。


「ごめんな、全部俺が悪い」

『…何が?』

「勝手に苛々して勝手に怒って勝手に怒鳴ってしもたから」

『やっと分かってくれたの?アタシ悪くないって』

「ほんまにごめん…理不尽やったやんな」


素直に謝罪を述べると動揺を見せてた名前からも腕が回されて。嫌っちゅうくらい好きを思いしらされる。


「俺ん事、嫌になってへんの?」

『とりあえず今のところは』

「そっか、安心した」

『……アタシも、ごめんね』

「うん?何で名前が謝るん?」

『明日から他人だとか、意地悪言ったから…』

「ははっ、せやなアレは効いたで?」

『だって蔵が一方的過ぎるんだもん!』

「うんごめんな?」

『うん……』


名前の身体を包んだ腕はそのまま、力だけを抜いて顔と顔を見合わせれば口も眉も下げて罪悪感に染まった彼女。こんな時でもそのまま押し倒してやりたいって思てしまうのは、それこそ最低なんやろか?
可愛いのが罪、正にそれ。此処が学校で良かったんちゃう?


『っていうかさ』

「ん?」

『そもそも何で怒ってたの?原因何?』

「あーそれは…言いにくいねんけど、名前の首にある虫刺され、財前が付けたんか思ってん…」

『……は?』

「俺の勘違いでした」

『何それ。くだらない!あり得ない!理不尽の中の理不尽!それならハッキリ言ってくれたら良かったじゃん!ちゃんと否定して証拠も見せてやったのに!』

「せやから俺が悪かったんやって、」

『まさか蔵がそんな訳ワカメな勘違いするとは思わなかった!馬鹿みたい謙也みたい!』

「な、」


そら俺が悪いねん。今回は俺が悪い、そこまで言われんでもそんなん分かってる。そやからこうして頭下げてる訳やんか。
せやけどやな…


「そうは言うても元々は名前がフラフラ家出して浮気してくるから誤解すんねやろ?俺が悪かったけど名前も名前でこれからはもう少し自重して行動して欲しいねんけど?」

『は、この期に及んでそんな事言うの…?』

「そんな事も何も正論やで」

『分かったもういい』

「、名前?」

『今から家出してやるから!絶対ついて来ないで!今日は帰らないから!!』

「ちょ、何でそうなんねん!!」

『蔵のばーか!ばーかばーかばーか!』


いつの間にか野次馬に取り囲まれてるところを彼女は上手く擦り抜けて、初めて堂々と家出をしてしまったっちゅう落ち。
追い掛けるにも人を掻き分けてる間に見失ったとかあり得へんやん…。

(いつもの癖で小言が足されたのがあかんかったわ)


(20101106)


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