相変わらず損な役は俺。
せやけど嫌いとか、離れたいとか、そんな気持ちは不思議と無いんや。
platonic heart
sweet.3-2 見守ってくれる男
今までやって白石が怒って名前が拗ねて、冗談みたいに揉め合う事はあったし、毎度それを見せられる俺は阿呆らしいからってとばっちりだけ喰わへんように一歩引いて眺めてた。
せやけど今日の白石と今日の名前は、そういうちゃう。初めて険悪を作った。
『ブッ!最高すわあの人、クックッ』
「財前笑い事ちゃうねんで…」
『はぁ?謙也先輩こそ何言うてるんです?“明日から他人になる人だ”やで、ウケますわ今も他人は他人やのに』
「せやから笑ってへんと何とか纏まる方法を考えて欲しいねんて!あんのドス黒い空気の教室に居らなあかん俺の身にもなってくれ」
『俺は関係無いし?っちゅうかそのまま別れてくれたら所詮そんもんやった、っちゅう事で名前先輩は引き取ったりますわ』
「阿呆か」
財前が名前を特別に想ってるんは俺も白石も知ってるし俺等だけやなくて周知の事や。せやけどそんな想いと一緒にアイツ等2人をひとつとして思ってあげてるんも知ってる。仮に本人にそう言うたとしても認めへんのやろうけど…
せやから多分、もしもほんまにアイツ等が明日別れる事になったら1番に動くのは財前なんやろ?
それなら最初から協力せえっちゅうねんこの不器用男は。人にヘタレヘタレ言う割に自分やって似た様なもんやんけ!
「なぁ財――、痛゛っ!いきなりビンタって何やねん!!」
『あー何となく今めっちゃムカついたんで』
「何となくでビンタすな!」
たまにあるアレ(心の声が洩れてしまったとかいうアレや)してしもたんか思たやろ!結局感付いてビンタされたら同じ話しやねんけどな…
「しゃーないわ、ビンタん事は水に流したるから何とかせえって」
『そんなん謙也先輩の十八番やろ?』
「無理!俺には無理や!近付いただけで飛び散ってる火花で火傷してまうねん…」
『はあ?っちゅうかそもそも部長は何で怒ってるんです?』
「それが俺にも分からへんねん…普通に話してた思たら急に白石がキレ出して」
『意味分からへん、そんなん俺やってパス――――……』
この話題はその辺のゴミ箱にでもポイしたる、そんな厭な手付きで外方向いたと思えば財前は無表情ながら閃いた眼で一瞬息を止めた。
「財前?」
『…多分あれや9割当たり』
「何が?」
『部長が怒ってる理由』
「お前心当たりあるんか!何や理由って!あんだけ白石がキレてんねんからよっぽど―――」
―……よっぽどの、理由があるんやと思ってた。名前も身に覚え無いって否定はしてたしあれが嘘には見えへんかったけど、普段が普段やから自覚無しで何ややらかした思ってんけど。
まさか、
「白石……」
『何や謙也。悪いけど今はお前と世間話する気分ちゃうねん』
「いや、そうやなくて…名前のアレ。ただの虫刺されやって」
『…………は?』
「せやから虫刺されやっちゅうねん!今回は白石が悪いで早よ謝りに行け!」
まさか、首を掻いた跡の赤みをキスマークと勘違いして怒っとるとか、そんな阿呆な話しやとは思わへんかった。
財前が言うには昨日から足と腕を狙って虫に刺されて痒い痒いと機嫌悪かったらしい名前は今日、学校来て気が付いたら首まで刺されてたとか。朝の時点ではそこまで腫れてなかったっちゅう話しやけど、そんな落ち、無いわ。ほんまに。まじで。
『せ、せやけどあれは財前が、』
「やっぱりそれで怒ってたんか…有り得へん!俺の気苦労返せや阿呆!」
『な…!そうは言うても財前がやらかした可能性もあるやろ』
「無い。財前から聞いたんやから間違いないわ」
『…謙也は丸め込まれとるだけかもしれへんで』
「ほんっまどないや!!珍しく名前も意地になってたんやからそれが証拠や!信用出来ひんならさっさと確認してこい!」
『、もし虫刺されやなかったら昼は謙也の奢りやで』
「おーおー奢ったるわ1000円でも2000円でも払ったる!」
言うたな、吐き捨てて背中を向けた白石を見たら一気に疲労感が溢れた。あーもう、アイツ等ほんましょーもない。毎日毎日厭らしい事考えてるからそんな思考に走んねん。俺みたいに清い清ーい清純な心で居ったら阿呆な間違いせえへんのやで。
それでも……、完璧主義で一歩二歩先まで詠んで冷静沈着な白石がこんな事になるんは…名前の前ではただの男っちゅう事なんやろか。
そう思うと少し安堵と喜悦が浮かんだ。
(20101020)
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