冬、卒業 | ナノ


 


 4.5



今日は川口と書いて山田太郎、斎藤と書いて山田次郎という2人の男をぶん殴ってやった。

パソコンを開けてそこまで文字を打ち込むと机にほたくったままの携帯が震動した。また部長やったら怠い、そう思いながら画面を確認すれば忍足謙也の名前があって、謙也先輩の事やから律儀に報告して来たっちゅうところやろう。
らしいっちゃらしいけど、ほんまこの人も面倒臭い人すわ。


「“お掛けになった電話は現在使われておりません”」

『財前お前…分かってたけど、ほんまお前は心の底から俺を先輩やと思ってへんやろ』

「それも何十回と聞いて来たんで飽きたんですけど」

『阿呆か!お前が言わせとんやろ!』

「そらすんませーん。で、何すか?」

『………俺、アイツに言うたから』


適当に普通を装ってから本題を迫れば案の定。
逐一、自分が告白するしない、告白したしてない、そんなん言わんでええのに。


「ちゃんと言えて良かったですやん。それこそ明日は雪なんとちゃいます?」

『今のはスルーしたるから財前もちゃんと話し聞けや』

「まだあるんすか?」

『大有りや!……俺な、言うには言うたけど、正直期待なんやしてへんねん』

「は?」

『名前が告白されるんやって知って、俺も言いたかっただけやねん』

「言うとる意味がよう分かりませんわ」

『せ、せやからやな…アイツにも言うたけど、つつ、付き合いたい訳ちゃうねん!』

「は?」

『そら付き合う事になったらそれはそれで嬉しいけど、それが目的やない。知ってて、欲しかっただけやと思う。せやからフラれて当然やと思ってるから』

「……つまり何が言いたいんすか?」

『そんくらい察しろや阿呆財前!』

「…切れた」


謙也先輩のくせに阿呆って吐き捨てて切るとか生意気すわ。
でも、それが謙也先輩から俺への優しさやって分かるから尚更腹が立つ。お前は俺ん事なんか気にすんなって言いたかったんやろ?余計なお世話やねん。


「それに、謙也先輩が願ってなくともあの人は彼女になってくれますわ…」


通話が途切れた携帯を2つ折りにしてベッドへ投げたら必然と溜息が溢れる。それは哀感なんか、安堵なんか、憂愁なんか、自分でも真意が分からへんかったけど、もう一度だけ溜息を吐いたら途中で止まったままやったパソコンに続きを打ち込んだ。

タイトル、卒業。

今日は川口と書いて山田太郎、斎藤と書いて山田次郎という2人の男をぶん殴ってやった。
それも昨日の今日でアイツがあの人にラブレターを書いたからや。結局俺の忠告も聞かんと性欲処理に利用しようとしてる鬱陶しさにムカついた。
待ち合わせ場所に指定された屋上へ続く廊下に先回りして待ち伏せしたら驚いた顔してたけど、丸くなった眼が開かへんなるくらいぶん殴ってやりたくなった。せやけど顔をやらかしたら後々面倒臭そうやし、仕方なく腹と背中だけに抑えてやった。
帰り際に『停学か退学にしてやる』とか阿呆吐かしてたけど、自分等がやらかそうとしてた事が公になるのが怖かったらしく『黙っといてやるわ』やって。ほんま情けない。っちゅうかキモい。

せやけどそんな事はどうでも良くて、このブログが今日の更新で最後やっちゅう事を書いておこうと思う。
約2年前のあの日から散々書いて来たけど、明日にはあの人に彼氏が出来る。そうなれば俺が世話を焼く必要は無くなるし、あの人も俺の身勝手な世話に付き合う事は無い。振り返れば長い時間やったけど、ほんまは短い時間やった。
せやけどやっとこの日が来た。ずっと待ってたんや。

あの人の彼氏になる人は阿呆やしヘタレやしお人好しやしどうしようも無いけど、蓋を開ければほんまに良え男やから大丈夫やと思う。山田太郎の嘘を本当にしてくれる様な人やから。
彼女になったらずっと笑ってられると思う。

俺にはそれだけで十分やし、隣に居てくれる人が居るなら有難い。
せやから今日で終わり。
俺は、あの人から卒業する。


(20110808)


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