冬、卒業 | ナノ


 


 03.



明日まで雪が残ってたら光2号と蔵1号と謙也1号でも作ろうかな、そんな期待を込めて夜を明かすと真っ白な雪はひとかけらも残さないで消えていた。


「…………これは、夢なの?」

『名前!幾ら雪が溶けたからって、たかがそんくらいで現実逃避はどうかしとるで』

「ちっがう!そんな話しじゃない!」

『ほな何やねん』

『どないしたん?何やあったん?』

「み、見て、コレ……」


昨日の雪が嘘みたいに快晴な今日、アタシの靴箱には白いメモが置かれてあった。
雪みたく純白な色をして2つ折りにされた紙、その中身は…


『“放課後屋上で待っています”?』

『……ベタやな』

「ベタでも何でも良いの!これってアレでしょ、ラブレターでしょ!?ラブレターだよね!?」

『そうやなぁ、ラブレターやと思うんが普通やろな?』

『せやけど川口って…誰なん?知り合いなん?』

「知らない」

『せやったら一目惚れっちゅう事やで名前、良かったな』

「や、やだやだ蔵ってば!そんなアタシが可愛くて綺麗でアイドル顔負けだなんて褒め過ぎだってば!」

『うん、俺は名前のそういうとこが1番好きやで?』

「ちょっと白石君…?」

『どないした?』

「何でも無いです…だけどアタシもたまにはモテるんですね、何か実感湧かない」

『…………………やろ』

「え?謙也…?」

『あ、いや、何でもないわ!』

「…………………」


ラブレターに浮かれるアタシに反して、伏せ眼がちに白いメモへ視線を落とした謙也が呟いた一言。
“名前やから普通に誰からも好かれるやろ”
謙也らしくなくて突っ込めなかった。何て返せば良いのか分かんなかった。謙也だったら物好きも居るんやな、くらい言うと思ったのに。
蔵には聞こえたのかな?蔵なら、この言葉の意味、分かるの…?
謙也と蔵とは3年間ずっと一緒に居た筈なのに、何だか不意に距離を作られた気がして焦燥感が走った。


「…………………」

『名前?』

「……………………」

『名前ちゃーん?』

「え、え、蔵?い、今何か言った?」

『謙也がオサムちゃんの使いっ走り行っとる間に俺が特別に課題教えたる言うてんのになぁ。心ここにあらず、やで』

「ご、ごめん、ラブレター貰って浮かれてた!」

『そうなん?』

「う、うん…そりゃ知らない人だし断るけど嬉しいもんじゃない?」

『せやな、気持ちは嬉しいやんな』

「……蔵、あの、ね?」

『うん?』


今なら謙也も居ないし、蔵に聞いてみても良いのかもしれない。
きっと蔵ならスッキリする言葉をくれると思うし、意図が分からなくてもアタシが欲しい言葉をくれると思う。
だけど…聞いちゃいけない気がするのは何で、なんだろう。


「………………」

『…言いたくないなら、無理する必要無いんやで?』

「え…?」

『言いたくなったら言えば良い。俺は今も、今やなくても、名前の話しならいつだって聞いたるから』

「―――――――」

『な?』

「――うん…でも違うの」

『違う?』

「今日アイス食べに行きたいなって思っただけだから」

『それは俺に買うてーって言うてるんかな?』

「うん」

『しゃーないなぁ…ほな、名前がこの時間に課題終わらせたら買うたる!』

「ええ!?絶対無理な事言わないでよ!」

『俺は名前を信じてるでぇ?』

「なるべく努力します」


結局、言えなかった。
蔵は優しいけど、光よりも謙也よりも誰よりも分かりやすい愛情をくれるけど、何でだか、聞けなかった。
でも謙也本人だってあれから普通だし何も言わないし、気にする必要無いんじゃないの…?
もしかしたら純粋にアタシの事を褒めてくれただけで、それが柄じゃなくて照れ臭いだけかもしんない。そうだよ、それならアタシが気にしてる方がどうかしてる。恥ずかしい。

うんうん、そうに違いない。
半ば無理矢理こじつけてる感は否めないけどそれを信じ込んで、いざ放課後の屋上へと向かった。


「だけどさ…」


屋上へ来てから10分経っても20分経っても30分経っても誰1人来やしない。人の気配を感じる訳もなけりゃ冷たい風が落ち葉を連れてくるだけ。


「何これ放置プレイ?呼び出しといてシカト?呼び出した事を忘れてるんですか?はっ!まさかラブレターじゃなくて不幸の手紙だったんじゃ…お前なんか風邪引いて寝込んでしまえっていうただの嫌がらせだとか…!」


やだやだそんなの羞恥プレイ過ぎて泣ける!死んじゃう!
それだけは勘弁して下さい、神様お願いだから川口君でも山口君でも何でも良いから連れて来てー!
馬鹿みたいだけど何かに縋らなきゃやってられなくて、空に向かって両手を合わせた瞬間。キィ、と鈍い音と共に屋上のドアが開いた。


「ああ!!やっと来てくれたんですね、このまま誰も来ないんじゃないかって―――――」

『名前、話しがあんねん』

「謙也……?」


ドアの向こうから顔を見せたのは川口君でもなく山口君でもなく謙也だった。そりゃ、誰でも良いとは言ったけど、何で謙也が?
からかいに、来たの?その割りには話し、って……。


「あ、あの、謙也は何でここに、」

『す、好きや!』

「は?」

『お、おお俺は、名前が好きやねん…』


……え?


(20110806)


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