冬、卒業 | ナノ


 


 2.5



『光、今日は有難う!』

「モノを与えて貰ったら機嫌良くなるっちゅう単純思考は分かってるんでええですわ」

『うーん、肉まんと唐揚げも嬉しかったけど違うんだよねぇ』

「違うって?」

『光が家まで送ってくれた事と、光が独り占めしたくて仕方ないぜんざい君を半分くれた事が嬉しかったんだよ』

「……………………」

『生意気で失礼な事ばっか言うけど、本当はちゃんとアタシの事も考えてくれてるの知ってるからね、だからアタシ光が好きだよ』

「―――――――」


昨日、あの人を家まで送った時に言われた言葉。ずっと頭ん中で繰り返し再生されてた。
俺があの人の事を考えてる事も、好きやって言うてくれた事も、本音はこっちが頭を下げたいくらいの言葉やった。

俺の全てを理解してなくともあの人に見えてる部分は理解してくれてる。好きという単語の意味が自分とは違う意味やとしても、俺にはそれだけで十分やった。
それだけで、これからも今まで通りを続けて行ける。寧ろ、続けさせて欲しいと思った。


『俺、気になってる事があんねんけど』

『何やねん改まって』

『1コ上に名前っちゅう先輩居るの知っとるか?テニス部のマネージャーしてた人』

『あー普通に可愛い人やん』


…そんな耽ってた時やった。
同じクラスの奴が壁に凭れて喋ってるのが聞こえて、そこにあの人の名前が出て来て思わず振り返ってしもた。


『可愛いは可愛いねんけど…』

『勿体ぶらんと早よ言えや』

『あの人の本命って誰?』

『お前惚れとんか?』

『ちゃうわ阿呆。いっつも男連れとるやん。白石って人と忍足って人。あとは渡邊先生とか他のテニス部の人も居ったりするし』

『まあせやな』

『女友達居らんのか?それとも男好き?テニス部全員捕まえてるんなら、俺も1回くらい相手して貰いたいなぁ思ってん』

『お前…くだらんわ!せやけど有りや!』

『せやろ?一緒にお願いしに行くか?』

『寧ろどっちが選ばれるか、両方か、賭けせえへん?』

『乗った!』


一部始終聞いた俺は身体の何処かで血管が切れる音まで聞こえた気がする。
誰が男好き?誰がテニス部全員捕まえてるって?誰がお前等を相手にしてくれるって?
冗談もここまで来れば笑えへん。


「なあ」

『あ、財前?どないしたん?』

「お前等、山田太郎と山田次郎やったか?」

『え、それはボケなんか?斎藤と川口やろ!クラスメイトの名前くらい覚えとけやー!』

『はははっ!財前ウケるわ!』

「俺は何もおもんないわ」

『、』


あの人は自ら部長や謙也先輩と一緒に居る、せやけどそれは女友達が居らんからやない。自分が好んで一緒に居るけど、それより先に部長も謙也先輩もあの人の傍を離れる気が無いからや。あの人の意志よりもっと前にそういう前提があるだけ、深い愛情があるだけやねん。
確かにあの人は誰にでも直ぐに甘えて懐っこいし誤解生むのも自業自得かもしれへん。せやけど俺が知ってる範囲で言われるのは腹が立つ。テニス部全員と寝てるとか、そんな薄っぺらいもんやない。


『ざ、財前?』

「俺の先輩の話ししとったやんな?」

『あ、あー、聞こえてたん?お前もテニス部やもんな!いや、あんな、コイツが3年のマネージャーの人が好きや言うから!』

『せ、せやで!めっちゃ可愛いし!良かったら紹介してくれへん?な、なんてな!』

「うざい」

『え、』

「今度そんな話ししとったら二度と口がきけへんようにしたるわ」

『財前、』

「それとも痛いのが嫌なら、新聞部に知り合いが居るんで良え記事書いて貰う様に頼んだるけど?」

『す、すまん財前、さっきのは冗談やから!』

『ほんまやで!悪乗りしたけど冗談やねんからそんな怒らんでええやろ?悪かったって!』

「……………………」


とりあえず山田太郎と山田次郎それぞれ一発ずつぶん殴ってやりたい。不細工を更に不細工にするんは良心が痛むけどとりあえず一発くらい、そう思ってると窓の外から聞き慣れた声が届いた。


『ひっかるー!』

「っ!」


タイミング良すぎやろ。
まあ話しが終わった後やから良かったけど。あんなパッパラパーな顔して聞き耳立てたって事は無さそうやし。


『、どしたの?あ、お友達と取り込み中?』

「別に…っちゅうか何処から現れよんですか」

『窓ですけど何か』

「名前先輩が非常識な事は知ってますけど用があるならドアから来たらどうなんです?」

『でも溶けると嫌だし』

「は?」

『昨日と今日のお礼を持って来たんだよ』


光1号です、そう言いながら差し出されたのは小さい雪だるまやった。俺に似せて作ったらしいけど全然これっぽっちも似てへんし、雪のお礼とか感謝どころか皮肉やし、土が手に付いて汚いし最悪やけど。


『もれなく光1号から熱い眼差しが送られるから!』


阿呆面で笑うあの人の顔を見たら瞬間的に愛着が湧いた。


「…放課後には溶けて無くなるんやろな」


予鈴と同時に携帯で写真を撮って、歪な雪だるまは今日から携帯の待ち受け画面になった。
本物は溶けても残るなら、良い。


(20110806)


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