冬、卒業 | ナノ


 


 02.



あれから光とコンビニに寄ると、結局光は自分の財布を開けてくれた。しかも肉まんと唐揚げ付きで、ぜんざいは半分分けてくれたっていう奇跡。
時々こうして甘い時があるから光って小生意気でも憎めないんだよね、本当は優しいの知ってるから。


『フーン。で、今日は機嫌がええ訳や?』

「正解!」

『せやけど財前がぜんざい分けてくれるとか雪降るんちゃうか?逆に恐ろしいで!』

『謙也、外見てみ?名前もな』


蔵と謙也には昨日アタシを放って帰った罪を償わせるつもりだったけど光様々でご機嫌だから許してあげて、あの光に奢って貰った事を散々自慢してやれば蔵の人差し指は窓に向けられた。
透明なガラスの向こうには薄いグレーの空からハラハラ舞い降りる白いモノ。


「え!雪!?」

『ほんまに降りよるやん!っちゅうか既に積もっとるし!』

『やっぱり気付いてへんかったんや?名前も謙也も揃って午前中寝てたからな』

「だって昨日昼寝し過ぎて夜寝れなかったんだもん」

『お、俺は夜通し勉強しててやな、』

『謙也、嘘は止めなさい』

『す、すまん…』

「もう!蔵のお説教は後で良いから早く外行こうよ!」

『もう昼休みも15分しか無いで?』

「余裕でしょ!いざとなったらサボ――」

『名前ちゃん?』

「――りませんから行きましょう」

『はい宜しい』


鬱陶しいくらい世話好きな蔵は、アタシの希望する専門学校が今の成績で問題無いから昼寝に関しては渋々眼を瞑ってくれるけどサボるって言うと流石に許してくれないらしい。何度も言う様だけど昨日放って帰ったくせに。
だけど蔵ってうちのママよりお母さんらしくて困るよね本当に。たまには昼寝以上に息抜きしてサボりたくなる日だってあるのにさ、特に今日なんか雪だよ雪?滅多に積もらないんだから良いじゃんね、口にはしないけど。


『名前、何作っとるん?雪うさぎ?』

「違うもん、これはプレゼントだから出来あがるまで謙也には秘密です」

『そ、そそそれって俺にくれるっちゅう事か!?そそそんなん受け取らん事も無いけど何やねん急に!調子狂うわ!ま、まままあ、せっかくやし貰ったるけど…!』

「よし!出来たー!!って、謙也何言ってんの?誰も謙也にあげるとは言ってないし」

『あ、そ、そうなん?』

「そうだよ、これは光にあげるの!昨日のお礼と雪のお礼に作った雪だるま光1号です!」

『光1号…何やダサいな…』

「何か言いましたか忍足君?」

『ハハハッ、謙也は残念やったけどよう出来てるやんか。ほなら早よ財前に届けたり?昼休みももう終わるし溶けたら勿体ないからな』

「うん行って来ます!」


せかせかと雪を集めて作った光1号、要は雪だるまのミニチュア版なだけだけど個人的にはめちゃくちゃ上手く出来た気がする。土を貼りつけて髪の毛と眼にして、口の部分はちょうどほつれてたマフラーの赤い毛糸。
ぶっちゃけ似てる。似過ぎて怖いくらいそっくし。
多分光はこんなの貰ったって喜ばないし有り難迷惑だってくらい言いそうだけど、そんなの関係無いもんね。とりあえずは有難うを伝えたもん勝ちってやつ。またいつか奢ってくれるその時の為に!なんてね。


「ひっかるー!」

『っ!』

「、どしたの?あ、お友達と取り込み中?」

『別に…っちゅうか何処から現れよんですか』

「窓ですけど何か」

『名前先輩が非常識な事は知ってますけど用があるならドアから来たらどうなんです?』

「でも溶けると嫌だし」

『は?』

「昨日と今日のお礼を持って来たんだよ」

『お礼って、昨日はともかく今日は、』

「じゃーん!!光1号です!」

『…………………………』


光が昨日珍しく珍しーくぜんざい半分分けてくれて雪を降らせてくれたでしょ、なんて説明してる間も光は眉間のシワを深くして怪訝を隠さない。


『光1号って、は、これ土?汚……』

「要らないって反応は想像してたけど汚いは無いでしょうが汚いは!」

『新たな嫌がらせか思って』

「純粋な感謝の気持ちですよ光君」

『フーン…ほな十分堪能したんで捨てて来てくれます?』

「やっぱり光は光だよね…」

『うわーめっちゃ嬉しいすわー感動感激すわー。これで満足しました?』

「もういいです絶対捨てません」

『捨てへんならどうせいっちゅうねん』

「ほらここ!窓枠に置いてくから溶けるまで幸せを噛み締めて見つめといて!そうすればもれなく光1号から熱い眼差しが送られるから!」

『激しく遠慮しますわ』


予想通り、ううん予想以上に光は怠そうに鬱陶しそうにしてたけど、放課後帰る前に光1号を置いておいた窓枠を覗くと雪が溶けた跡が残ってた。
あんな顔してたってやっぱり捨てずにいてくれたんじゃん。口を開くと可愛くないくせに、可愛過ぎるってば。


(20110806)


prevnext



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -