君愛 | ナノ


 


 05.



ありがとう。
俺だって言えない。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.5 8年前の幼馴染み


8年前、俺達が10歳の時、アイツは亡くなったんだ

その声はいつもよりか細くて、だけど凛としてた気がする。
まさかそんな言葉が降ってくるなんて予測出来る訳が無かった俺は、ただ呆然と幸村部長の声を耳にするだけで相槌すら忘れてた。

幸村部長の話しによれば、名前先輩には幼稚園に入る前からの幼馴染みが居て小学生になってからもずっと仲が良かったらしい。寧ろ、良過ぎた。いつもお互いが隣に居なきゃ気が済まないし、何をするにも一緒だったんだ、って。そんな2人と知り合ったのは真田副部長と同じ、テニスクラブでグループが一緒になったから。

今の名前先輩からじゃ全然想像なんか付かないけど、昔の先輩は気が強くて素直じゃなくて意地っ張りな女の子だったみたいで、幼馴染みの彼氏からは『そういうところも俺は好きだけど“ありがとう”だけは言わなきゃ駄目だろ』なんて良く言われてたとか。ありがとうが言えない先輩なんか本当に想像出来ない。出来ないけど、それが真実だって。


『今の名前が居るのはアイツのお陰だよ赤也』

「………………」

『時々は勘に障る事もあったけどね、曲がった事は言わない真っ直ぐな奴だったな。名前じゃなくても真田も俺だってアイツを気に入ってたんだ、大袈裟に言う様だけど人を惹き付けられる人間それが平助っていう男だよ』


“平助”
その名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。もう亡くなった人相手にこんな事思うのもどうかと思うけどさ、やっぱ……名前先輩に関係のある男っていう存在が、嫌っつうか。
8年前なんか俺は名前先輩の事も知らないで呑気にテニスやって勉強は適当で、気儘に生活してたんだし、そんな良い人相手に妬く資格ってもんは無いに等しいんだろうけど。


「……何で、亡くなったんすか」

『…クラブの帰り、名前を送った後で工事現場に捨てられた猫を見付けたんだってさ。その日は何でだか風が強くて、猫を拾おうと思ったら詰まれてあった材木が崩れた』

「、下敷きになった、んすか?」

『重度軽度問わず大人ならまだ助かったかもしれない。だけどあの頃はまだ身体も出来てない子供だったからな、即死だったって』

「…………………」

『俺から話せるのはここまでだ、名前に怒られそうだし。もし気になるなら本人に聞くべきだよ、話してくれるかは別だけどな』


それを聞いてどう返せば良いんすか?残念でしたね、哀しいすね、そんな一言二言を簡単に口に出来るほど俺だって馬鹿じゃないっス。況してや「教えてくれて有難うございました。本人に聞いてみます」なんか、言えねぇって。そういうの、酷だって言うんじゃないっすか。
右手で頭を抱えたまま顔を上げられない俺に気を使ってるのか、それとも平常心は崩れてないのか、どっちかは分かんねぇけど、幸村部長はコートに戻ろうと部室のドアを開けた。


『あ、もうひとつだけ教えてやる』

「、」

『平助が亡くなってから葬儀の間もずっと、名前は泣かなかった』

「え………?」

『親族や友達、周りが泣き叫んでる中で名前だけは一滴も涙を落とさなかったんだ』


静かにドアが閉まってく音が響いて、また部室にひとつだけ影が残る。ソレをじっと見つめては聞いちゃいけないコトを聞きたいって思う自分が居るのを知って、だけど聞けないって、繰り返した。


(20101101)


prevnext



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -