君愛 | ナノ


 


 04.



好かれたい、
ただそれだけでも、罪だったのかもしれない。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.4 言う相手間違えた


「ああー!まじやってらんねぇ!」

『それってアタシのせい?』

「、いつから居たんすか!確かさっきのさっきまでコートに居た筈じゃ…」


赤也が心配だったんだもん、そんな返しをされたら俺だって「うん」なんて肯定は出来ない。

午後の授業も全部サボって本当の本気に隅から隅まで掃除して。自分の部屋ですらここまで念入りに神経使って掃除した記憶も無いのに良く頑張ったよ俺。なのに放課後迎えたら案の定、真田副部長からは鉄拳付きで1時間の説教。
ここまで来ると自分の鞄だろうがお構い無しにぶん投げたくなって、部室のドア目がけて放った瞬間そんな登場。意外とコントロールが悪かったらしくドアから鞄がそれて良かったって安堵したし、俺を気にしてくれたってだけで厭なムカつきも消えてく。

ねぇ、この人を狡いって言わないなら何を狡いって言えば良いんすか。狡くたって好きなもんは好きなんだから嫌いになんかなれやしないけど。


「…心配ってどれくらいすかー?」

『富士山くらい?』

「それなら嬉しい言葉でもくれたら直ぐ元気になるのに」

『赤也好きー?』

「ハテナ付けて言われても」

『赤也愛してる!』

「………………」


めちゃくちゃ嬉しい。めちゃくちゃ幸せっすよ。今すぐ骨が折れるくらいぎゅって抱き締めて、俺もって言ってやりたいくらい。


『あれ、不満?』

「不満っつーか、もどかしい」

『モドカシイ?』

「だってソレ、皆と同じじゃないっすか」

『あーそういう事』

「っス」


贅沢だって言われても、俺は皆と同じ“愛してる”が欲しいんじゃない。男として、付き合って行きたい結婚したいって思ってくれる上で俺だけに言って欲しいんすよ。
毎度好きだって言われて浮かれてるけど本当は、ソレに意味が無い事だって馬鹿でも分かってますって。


『じゃ、先にテニスコート行ってるから早く来てね』


それでもニッコリ笑って部室を出て行く名前先輩は、どんな気持ちなんすか。俺なんか話しになんない?駄目?
いつもと変わらないやり取りな筈なのに、いつもとは違う虚無感に必然と眼を細めたら溜息が零れた。


「……ハァ」

『溜息吐いてないで早く着替えなきゃ駄目だろ赤也』

「っ!?」

『それとも授業サボったついでに部活もサボろうとか思ってるのか?』

「おお思って無いすよ幸村部長…!」

『それなら良いけど』


本っ当、この学校(主に朝と放課後)に居る時だけはウカウカ溜息すら吐いてらんねぇ…音も無く現れた幸村部長を見ては腕を組んで微笑んでるから、それがまた俺には恐怖だっての。


『で?』

「はい?」

『溜息なんてらしくないだろ』

「…………………」


そのまま、慌てて着替える俺を余所に笑顔を崩さないまま核心を付いてくる。
俺の頭には幸村部長イコール怖い人だって方程式が完成してて、その笑顔が怖いのに。部長らしい部長の顔を向けられると、半分は放っておいて欲しかったのにもう半分聞いて欲しかった弱音が溢れてくる。


「…俺って、報われない片想いしてるんすかね」

『さあ、どうだろうな』

「幸村部長、楽しそうなんすけど」

『まさか。面白いは面白いけど俺は良いコンビだと思ってるよ』

「ま、マジっすか!」

『尻に敷かれる赤也、様になり過ぎて良い感じだよ』

「………………」


完璧言う相手を間違えた。
結局俺の方程式は正しくて、幸村部長は俺を見て喜んでるだけなんだよ。そりゃそうだよな、何せ掃除に加えて説教だし。
さっきの話しは無かった事にしてとっとと部活に切り替えるのが得策だよな、そう思ってジャージのファスナーを上げた瞬間。

幸村部長から出た言葉は俺の頭に鉛を投げつけた気がした。


『まあ、名前が相手だと手強いのは仕方ないだろうな』

「え?」

『名前、彼氏居るから』

「―――――」


“8年前に亡くなったけど”


(20101026)


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