君愛 | ナノ


 


 03.



あの人と一緒に居れば満たされる。
俺だってそう思われたいのに。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.3 反抗期どかろか従順過ぎっしょ?


膝を床に着けて雑巾で擦る床からキュッキュッとわざとらしく音を出したって誰もこっちに気を止めない。
幸村部長は午後ティー飲みながらガーデニングの本なんか読んでるし(かと言って掃除の手を止めたら直ぐに気付くし)、仁王先輩はPSPやってるし、丸井先輩はロッカーから取り出したポテトチップスとか常温で日持ちするパウンドケーキ食ってるし、名前先輩は丸井先輩から貰ったチョコパンを嬉しそうに頬張ってるし。(その顔がまた可愛くてこっちまでつられて笑っちゃいそうなんだけどさ)

名前先輩と一緒、同じ空間には居るけどこういうのって。
何か寂しいんスけど。


『うーん?どしたの赤也もチョコパン欲しい?』

「名前先輩があーんしてくれるなら欲しいっす」


やっと俺の視線に気付いてくれたら寂しさなんて厭な言葉は吹っ飛んでく。眼と眼が合うだけで1メートルの距離も0に感じて抵抗なんか感じずにつられ笑いを返すのに、だけど『赤也がお手したらあげるよ』ってどうなんすか?それは無いっスよマジで。
先輩から見た俺って犬同等って訳?


『あれ、反抗的な眼だね』

「別に反抗じゃないけど…拗ねたくなる時もあるんスよ!」

『ゆっきー!赤也が反抗期だよどうしよう!』

「ちょ、名前先輩、そのフリは駄目っすよ―――『赤也』」


先輩にとってはペットと変わらない自分、とか拗ねてる場合じゃなかった。
磨いた床はまだ半分程で、つまりそれは後半分も掃除が出来てないって事で、解釈の仕方によれば反抗期イコール掃除なんかしてられるかよ、みたいな。
幸村部長の手で静かに閉じられた本の音がやけに響いた気がした。


「あ、あの、」

『赤也はいつになったら掃除を終わらせてくれるのかな』

「そ、それは、」

『ねえ、反抗っていうのは俺に何か意見したいって事だろう?』

「そそそんな筈無いっすよ!ある訳無いっすよ!!」

『じゃあ続きしようか。もうチャイム鳴るけど赤也はそのまま頑張るんだよ』

「え、」


仁王先輩も丸井先輩も関係無いって顔で笑ってるけど笑い事じゃないんスよ?
授業中も掃除って、授業サボるのは全然良いけど教師より煩いのが1人居るの分かってます?


「ゆ、幸村部長、授業は受けなきゃ今度は真田副部長が何て言うか、」

『ああ大丈夫大丈夫、ありのままを俺が伝えておくから』

「ありのまま?」

『赤也が名前を遅刻させて、その罰に掃除してたんだけど昼休み中に終わらなくて授業までサボりましたって』

「は?!それは全然大丈夫じゃないと思うんスけど…!」

『何を言ってるんだ、俺は間違った事も嘘も何ひとつ言ってないじゃないか。じゃあそういう事で』

「ゆ、幸村、部長…!」


ああ、絶対ヤバイ。
放課後は真田副部長からの鉄拳決定だし寧ろそれだけで済むかどうか微妙じゃん。往復のビンタが5回くらいあって、たるんどるって長い説教が入って最終的には成績の話しになって、最悪部活が終わってから毎日勉強とか何とかそんな事になるんじゃねぇの?
そんなの毎日が地獄なんスけど。

ゲームとお菓子と片手にした先輩達に頑張れって言われたってヤル気も歓喜も何も湧かないし、励ますどころか顔は面白がってるしいっそこのまま逃げ出したいとも思ったけど、

(赤也、アタシの為に頑張って)

甘い声の耳打ちと、チョコパンを口の中へ突っ込まれて間接キスをプレゼントされたら何でも頑張れると思った。
そういうの、小悪魔って言うんじゃねぇの?


(20100804)


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