重すぎた想いはそう簡単に消えやしない。
だから、忘れて良いんすよ。
君を好きになった僕を
愛して下さい
captive.13 諦めます、貴方を
たった2日でも一生分の艱苦を味わった気分で居た俺は幸村部長に頭を下げて直ぐ、テニスコートへ走った。無意識でも探してしまう名前先輩を見付ける為に右へ左へ首を動かして、難なく姿を捕らえたら、テニスコートの隅で1人項垂れてた。
先輩が元気無く萎れてんのも、俺の所為なんだ。
「……名前先輩、ちょっといいすか」
『え、あかや…?』
「聞いて欲しい事があるんすよ」
『で、でも、アタシは…』
「聞くだけで良いんでお願いします」
『………分かった』
散々避けておいて何を今更、そんな思考が伝わる中で名前先輩の隣に腰を下ろすと、また先輩はこっちを見ない様に腕の中へ顔を埋めてしまった。まあ、そんな風にされても責められる訳が無いししゃーないんすけどね。
すみません、一言だけ胸中で謝ってから俺は口を開いた。
「俺、名前先輩に引っぱたかれてからずっと考えてたんす」
『……………』
「確かに俺は先輩が大事に思ってる人に失礼な事言ったかもって、それは反省してるんですよ」
『………うん』
「でも俺、自分では名前先輩にアピールしまくってたつもりだし、それで伝わらないのが悔しくてムカついてたんすよね、だからあんな風に言っちゃったんすけど」
『………………』
「それでも先輩にはやっぱり届かないし、それならいっそ俺は名前先輩の傍に居ちゃいけないって思いました」
顔を埋めたまま名前先輩の肩がピクンと跳ねたのが分かって、小さな風が俺と先輩の間を通り抜けてく。ここには見えない壁があるんだって伝えるみたいに。
「……だけど駄目みたいっす。俺は名前先輩が好き過ぎて、2日が限界なんすよ。だから仲直りして欲しいんすけど…」
『……仲直りって、』
「あーちょっと待って下さいね、仲直りっつってもこのままじゃ先輩に負担有り過ぎなんで俺が言った事忘れて良いっす!」
『え……?』
「俺は名前先輩が好きだし愛してるって感じなんすけど、本当はそれだけじゃないんすよ。マネージャーとしても好きだし、学校の先輩としても好きだし、姉ちゃんって言えば語弊があるけど色んな意味で好きなんです」
『…あか、や?』
「俺は一生、名前先輩が好きな自信があるんすけどそれは忘れて貰って、これから家族愛とか友情愛みたいに思って貰えたらって」
『それって、』
「先輩の事は諦めるっす!だから俺は名前先輩を見守る側になりたいんで、仲直りしてくれたら嬉しいんすけど」
『――――――――』
「だめ、すか?」
『…分かった』
「まじっすか?!」
『あ、アタシも、叩いちゃって、ごめんね…』
「あんなの全然平気っす!親には頭殴られてばっかだし名前先輩は気にしなくて良いんすよ!」
今の俺にはこれがいっぱいで壁をぶち破るなんて到底出来っこない。だから、これからも好きだけどそれは見逃して貰って、先輩があの人を想って生きる事を見守らせて下さい。
名前先輩が泣いてる事に気が付かなかった俺は、有難うございましたと告げてテニスコートへ戻った。
(20110405)
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