君愛 | ナノ


 


 12.



追ってはいけないのに追ってしまう。
逃げられれば、切なくなるのに。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.12 どうしたって駄目なんだ


『赤也』

「、」

『いつまでそうやってるつもりなんだ?』


俺が名前先輩から距離を作ってから2日目の放課後、普段通り部室でジャージに着替えていると既にジャージ姿で部日誌を眺める幸村部長の声が届いた。視線は日誌に向けられてんのに眼が合ってる気がして、いつになく柔らか過ぎた声色は俺の肩を跳ねさせた。


「な、何の話しっすか?」

『誤魔化すならそれでも良いんだけど、最近の赤也はいつも眉間にシワを作って真田みたいだからさ』

「…それは素直に喜べないんすけど……」


皆まで言わなくなって幸村部長が言いたい事は分かってる。名前先輩を避けて、それからどうするんだって話し。避けるだけ避けて、だけど同じ部内に居る限り顔を合わせなきゃなんねえのに。お互い気まずいまま外方向いて周りに気使わせて。
それがずっと続くなんて、幸村部長から見れば馬鹿で滑稽にしか映らないんだろう。


『らしくないな』

「え、」

『俺はてっきり赤也だけは名前じゃなきゃ駄目なんだと思ってたんだけど』


そこで漸く幸村部長の真っ直ぐな黒目がこっちに向けられた。それは冗談とか何となくの予想だとかそういう眼じゃない。絶対の自信がある、だから口にした。幸村部長はそういう人なんだ。
心臓を貫かれたみたくその眼が痛いと思ったのはそれが図星だから、理由はそれしかないんすよ。


「幸村、部長」

『うん?』

「俺、この2日間めちゃくちゃつらかったっす」

『…うん』

「言っちゃいけねえ事言って先輩怒らせて、だけど自分の気持ち否定するのは嫌だったから後悔はしてないし謝りたくもなかったんすよ。だから、こんな状態になったんすけど…」


でも本当は名前先輩を見て、名前先輩から眼を反らすのがつらかった。幾ら離れるって決めたって好きなのは変わんねえんだから今日も昨日も無意識に俺の眼は名前先輩を探してる。それなのに名前先輩を見ちゃいけねえなんて。余計、名前先輩が頭から離れなくなった。

傷付いた様な、怒ってる様な、そんな顔してるのを見ればそりゃそんな顔させるつもりじゃなかったのにって罪悪感は沸き上がったけど、それでも俺の事を考えてくれてんのかなって…こんな時でも本当は何処かでそう思ってた。ただ、だからと言って名前先輩が俺を好きになる事は無いんじゃんって。それの繰り返し。


『それで、赤也はどうしたいか答えは出たのか?』

「……今の今まで迷ってたんすけど」

『………………』

「俺は、どうしたって名前先輩が好きっす。なんで、潔く当たって砕けて来ようと思います」

『…そう』


ほんの少し口角を上げた幸村部長はそれ以上何も言う事は無く俺の背中をポンと叩いた。
例え最後は名前先輩の味方なんだとしとも今だけは俺を支えてくれるみたいに。


(20110405)


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