君愛 | ナノ


 


 14.



好きなのは変わらない。
例え他に好きな人が出来ても幸せならそれで良い。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.14 好き。


言いたい事は全て伝えられて俺の頭は漸く余計なゴミを片付けたみたいに気持ちが良かった。
これからは今までとは違うけど名前先輩の傍に居られる、それだけで少し、幸せを感じられた。
やっぱり俺って名前先輩無しじゃ生きて行けないんすよね。幸村部長に言われたからって訳じゃないけど。


『赤也!』

「幸村部長、なんすか?」

『名前ともちゃんと話し合って今日も部活ご苦労様、って言いたいところだけど』

「…だ、だけど?」

『赤也の所為で周りに迷惑を掛けた事は理解してるだろう?という事で今日は部室の窓を拭くように』

「まじっすか…!!」

『大まじだよ、特に外側が酷く汚れてるから頼んだよ』

「………はい」


噂をすれば何とやらなタイミングで本人が現れたかと思えばコレ。さっきまで優しい部長ーって感じだったのにやっぱり幸村部長は幸村部長な訳で…もう最近事ある毎に掃除ばっかさせられてる気がするのは、気のせいじゃないっすよねー。

溜息は出るものの、幸村部長の発言に間違いは無いし反省を込めて掃除用具を引っ張り出す。いざ雑巾を持ってみれば独特の匂いに早速ヤル気が無くなるけど、名前先輩とだって仲直り出来たんだし…これくらいやっとかなきゃ罰が当たんのかな、なんて。


「えーと…雑巾で拭いた後に新聞紙で仕上げんだよな、っつーか外側って絶対汚れんだからやる必要なくね?まあやんなかったらやんなかったで幸村部長だけじゃなく真田副部長まで出てくんだろうしやるっすけど…」


どうせなら名前先輩にお詫びっていうか、ケーキでも買いに行こうかと思ってたのに…流石に一緒に行くってのはアレだし。さっさと掃除終わらせて行けば良いか、そんな事を考えてるとカーテンが引かれた部室の中から何か話し声が聞こえて。


「…、名前先輩と、幸村部長……?」


顔は確認出来なくても誰かなんて安易に分かった。


『名前、泣いてたんじゃ俺には分からないよ』

『だ、って……!泣きたくない、けど、出てくる、んだもん…!』

「!」


何か俺が聞いちゃ駄目な話しっぽいんすけど…だけど掃除があるし、先輩が泣いてんなら尚更気になる。名前先輩の事を諦めたのは諦めたけど、好きな気持ちは止めてない。
どうせ幸村部長が窓掃除って言って来たんだし、聞こえてないフリしとけば…良い、すよね?


『アタシ、赤也の事許せなかったの、平助の事何も知らないくせにって…』

『…まあ、知らなくて当然なんだけどな』

『でもやっぱり許せなくて、大嫌いって叩いたのも本心だった!』


気になる、けど。聞かなきゃ良かったって思うのは早かった。
あの時の話しをしてるとは思わなかったし、仲直りしたばっかでこんな話しをしてる意味は……、結局俺が許せない、それしか無いじゃん…。


『赤也も悪気は無かっただろう?名前を想ってるからこそだし、それは名前も理解してるんじゃないのか?』

『そうだよ、分かってたよ…だけど駄目なものは駄目なんだよ…』

『じゃあ、今もそう思ってるのか?』


明日、幸村部長と真田副部長には怒鳴れるかもしれない。でもこれ以上ここで聞いてられなくて。
もう、帰ろう。そうは思ったけど予想以上に堪えたのか足が動かない。
なんだよそれ…どんだけ俺情けないんだよって話し……


『どうなんだ?』

『……分かんない』

『分かんない?』

『アタシ、赤也の事嫌いだって思ってたけど、嫌いになれなかった…』


………え?
今、何て言ったんすか?こんなベタな都合良い展開とかある訳…、


『次の日、叩いちゃった事だけは謝ろうと思ったの、だけど赤也はアタシの顔見て逃げるばっかで…もしかしたら赤也も悪いと思ってくれてお互い謝る事が出来るかなって思ってたのに』

『それだけ赤也はショックだったんだろうし、逆に言えば根性が足りないって訳かな』

『うん…アタシはそれで余計に赤也が嫌いだって思った』


そう、すよね。そんなに都合良く聞き耳立てる訳が無いっすよね。
言われてみれば名前先輩がそう思うのも無理無いし…せっかく先輩から仲直りしようと思ってくれたのに俺は、逃げてたんだ。


『でも、ね、赤也から避けられてると段々寂しく、なった。怒ってたのに、いつも笑ってくれる赤也が居なくて、つらくなった…』


名前、先輩……?


『そしたら今日、赤也が謝ってくれて、赤也の気持ちも分かって…やっぱりアタシは言い過ぎたんだって思って…』

『……うん。それで?』

『いつもずっと好きですって言ってくれたのに、諦めるって言われて、心臓が止まりそうだった…』

『………………』

『だって、諦めるって何?愛してるのに違う意味ですよってどういう事?赤也はもうアタシが好きじゃないの?先にアタシが嫌いって言っちゃったけど、赤也もアタシが嫌いになったの…?』

『……名前、』

『そんなの考えられないじゃん!赤也はアタシが好きで、先輩先輩っていつも隣に居たのに、そんなの赤也じゃない!!でも…アタシは平助しか居ない…平助はもう居ないけど、平助には言えなかったけど、平助が好きなの、赤也が居なくても平助はずっと…、』

『名前、平助はいつも何て言ってた?』

『え、』

『名前か好きだからそれをちゃんと伝えてたいって言ってただろう?』

『……………』

『あの時の名前は意地っ張りで自分の気持ちを伝えられなかった。今も同じじゃないのか?』

『アタシは……』

『赤也だってこれから先、良い人に出会えば付き合う事もあるだろうし結婚するかもしれない。それを今の名前に止める権利は…無い』

『、』

『平助だけを想って生きていく、その覚悟があるならそれは俺から見れば立派であって素敵だと思う。だけど、平助はそれで喜ぶと思うのか?』

『……だって、アタシが平助を好きで居なきゃ平助は本当に独りになっちゃうじゃん…』

『じゃあ、赤也の事は後輩として名前も見守っていかなきゃ駄目なんじゃないか?』

『…………………』


幸村部長の言葉で脳に過ってきたのは何度か見た夢だった。
俺が知らないあの人が、愛しく名前先輩を映してる顔と、愛くるしく語り掛ける、声。


『俺はさ、平助の事を忘れろなんて言ってないんだ。俺にとっても大事な友達だった事、今も変わらないし、名前にとっては俺よりも大事な人だった事も知ってる』

『、』

『平助はあの頃の記憶のまま大事な人で、これからの未来は別の大事な人を見付けてもアイツは怒ったりしない筈だよ?名前の事しか頭に無い奴だったんだから』

『―――…アタシ、平助に一度も好きって言えなくて…そのまま平助に会えなくなって……本当に後悔した、の。今ならきっと言えるのに、平助は居なくて、後悔した…。赤也も急に避けられようになってから、直ぐ近くには居るのにあの時みたいに思えて…』

『うん……』

『本当は赤也を平助のお墓に連れて行ったのもアタシの大事な人を赤也に知ってて欲しいから、平助にも知ってて欲しいから……だから、一緒に、行った』

『もう、答えは出てるんだろう?』

『天秤になんか掛けられる筈無いのに、赤也より平助が大事だって思い込む様にしてて、アタシ、また、嘘、吐いて……平助より、赤也を傷付けた…』

『赤也さ、窓の掃除をする様に言っておいたから行っておいで。平助にも、ちゃんと伝えておいで』

『うん……!』


軽く見てた訳じゃない。あの人の事を軽視してたんじゃないのに、名前先輩の本音を聞いて視界が滲むどころか地面の色がどんどん変わってく。
きっと名前先輩が出て来る迄ほんの数秒しか無いのに普通の顔は絶対出来なくて、それでもゴシゴシ袖で擦ればコバルトブルーの空から何か聞こえて来た気がした。

(これでやっと安心して寝れるから、交代っつー事で)

多分、あの夢は名前先輩の為にあの人が見せてくれたんだ。先輩が来たら、あの人に有難うを伝えに行こうと思う。
名前先輩が来るまで、あと5秒。


“名前が幸せだったらそれで良いやって事”


END.

(20110405)

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ラブラブ〜は敢えての割愛で完結です。この連載を始めてから数ヶ月も経ったのできっと纏まらないまま終わったんだろうなと思います…
あああ、情けない(;;∩∇`)
でも今回も完結出来た事だけを自己満足にして引き続き他のお話も頑張ろうと思います!
最後までお付き合いして下さいました方、有難うございました!


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