想いが交ざり合わなくて、
雨音を消す乾いた声だけが響く。
君を好きになった僕を
愛して下さい
captive.10 キライ
流石にあのまま名前先輩を置いて1人で帰るってのには気が引けて。先輩の肩に傘を掛けた後、墓地から抜けて直ぐの車が少ない道路脇にあるガードレールに凭れていた。
雨はそれなりに降ってんのにシトシト程度で済むのはちょうど頭の上に植木があったから。でも、葉っぱをすり抜けて落ちてくる小さな滴は一層冷たかった気がする。
『あかや?』
「あ、」
『帰った、のかと思った』
「…勝手に着いて来たのはこっちなんすから気使わなくて良いんすよ」
『気使うって、』
「心配しなくても家まで送りますから」
別に冷めた言い方をしてる訳じゃない。突き放してるつもりだってない。
ただ、頑張ってんのに凹んで、それでも頑張るって決めた矢先これだから。寧ろ名前先輩に突き放されてるみたいで、近付いた距離をもっと広げられてるみたいで、精一杯“普通”を貫いてるつもりだった。今更傘を傾けられたって身体は冷えきってるんすよ。
『赤也、何かいつもと違う…?』
「違いませんて」
『でもこっち見ないじゃん…』
「下向いてないと雨が眼に入っちゃうんすよ」
『傘、一緒に入ってる』
「もうびしょ濡れなんで頭から滴るんですって」
『……平助のお墓に付き合わせて怒ってるの?それとも嫌いになった?』
「、」
『だけど平助は毎日寂しいだろうし赤也が来てくれてきっと喜んでるよ、アタシも嬉しかったし…それに今日は平助の大事な日だもん』
何かもう。何で分かってくんないんだろって、腹が立つより虚しさのが膨らんで。それを制する事が出来ないまま、俺の腕はあの人を力いっぱいに包んでた。
「俺、好きっすよ…」
『、』
「好きです、めちゃくちゃ惚れてるっす、いつも伝えてたじゃないすか…!」
ひらり、傘が宙を舞って名前先輩に雨が落ちてくる。それでも先輩が濡れない様に強く強く抱き締めて、雨なんか払い除けてやりたかった。
『あかや、』
「いい加減こっち見て下さいよ…」
『え、』
「あの人はもう此処に居ないじゃん!目の前にアンタが好きだって言ってる奴が居るんだからそっち見ろよ!もっと、現実受け入れて下さい!」
この短時間で先輩がどれだけあの人を大事に想ってんのかは痛いくらい分かった。どんな思い出があるか迄は知らなくたって、嫌ってほど分かってる。
だけど、見てらんないんすよ。居ない人の事ばっか考えて、報われないって。忘れろなんては言えないけどもっと…
「あの人だって名前先輩をこんな風に縛りたい訳じゃないだろうし、俺は本当に―――」
名前先輩が、好きなんすよ
それを伝えより先に頬を叩く乾いた音が響いた。一瞬だけ雨音すら消したそれが聞こえれば、俺の左の頬がジンジンと痛みを顕わにして小さな声をも届ける。
“大嫌い”って。
(20101228)
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