君愛 | ナノ


 


 09.



青い涙は空から落ちたのか、黒い眼から落ちたのか、
分からないまま背中を向けた。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.9 聞こえないありがとう


幸村部長が言った通り、午前11時を過ぎると急に雲行きが怪しくなった空は昼休みのチャイムを告げたと同時に激しい雨を降らせた。
案の定部活は休みで、加えて名前先輩の様子が可笑しいとなれば俺のやる事はただひとつ。傍に居るってだけ。


「名前先輩」

『、赤也?アタシの事待ってたの?』


放課後を迎えるなり正門へ走って、ちょうど置き傘があったからそれをさせば、5分足らずで来た本人を傘の中へ招いた。傘が無かったらしい先輩はタオルを頭に被ってて、それがまた変に似合いすぎて可愛かったけどそれ以上濡れるのを見るのは嫌なんすよ。風邪引いて学校休み、とかもっと嫌だし。


「待ってちゃマズかったっすか?」

『そんな事言ってないよ、傘無いから赤也が居てくれて嬉しいもん』

「そう言われると俺はもっと嬉しいっス!」

『やっぱり赤也好き!』


腕に絡まってニコニコ歯を見せてくれるのは普段通りではあるけど、どうしたって黒い眼がユラユラ揺れてるのは気のせいじゃなくて。せめて、名前先輩が濡れない様に傘を傾けた。


『赤也、あっちあっち』

「何処行くんすか?」

『もう着いたから!』

「着いたって――」


腕を組んだままソレを引っ張られて足を進めた先は駅2つ先の、墓地、だった。誰、なんて口にしないでも分かる御影石は雨に打たれながら街灯の光りを受けていた。
もしかして今日は、あの人の……?
そう浮かべたと同時に名前先輩は鞄から袋を取り出して子供向けのスコップで石が立つ真ん前の場所を掘り始めた。


「ちょ、先輩!何してるんすか!それは流石に、」

『良いから良いから』

「良くないっすよ!そんなのバチが当た……、」

『アタシの毎年恒例行事だよ』

「恒例…?」

『明日ね、アタシの誕生日なんだ。今までゆっきー達には口止めしてたから赤也は知らないだろうけど』


軽く掘った先からはナイロン袋に入った箱があって。雨に濡れるのも土で汚れるのも構わず中を開ければ、幾つかの包装された何かが入ってた。
明日が先輩の誕生日って事は、今日は……


『平助の誕生日だからプレゼントあげなきゃ』

「……………」


命日、だと思った。
改めてここへ来るのはそれが理由だって思ったのに、誕生日だから…?毎年受け取って貰えないプレゼントを買って、箱に入れて、埋めて来たって?
どんな気持ちで?


『おめでとう平助、今日で18歳だね』

「先輩、」

『悩んだんだけど去年はピアスだったでしょ、だから今年は指輪だよ?18になったら男の子も結婚出来るしね』

「せん、ぱい……」

『平助言ってたじゃん、早く結婚出来る歳になりたいって。だからアタシが指輪買って来たんだよ感謝してよね、本当は平助に貰いたかったんだから』

「っ、」


プレゼントと一緒に手紙を箱に入れもう一度埋め直す名前先輩に当然『ありがとう』の返事なんか無い。どんなに声を掛けたって物を渡したって、受け取る手の体温も喜悦した顔も何も見えなくて、ただ、雨の滴が先輩を包むだけ。

雨のせいか、本当はどうなのか分かんねえけど。名前先輩の横顔は泣いてる様に見えて、俺は傘を預けてその場を離れるしか出来なかった。
………悔しくて。


(20101129)


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