距離を縮める道は長い様で短くて、
眼を瞑りたいと願った。
夏の空に君が咲く
bloom.8 焦燥
久しぶりの街並みは何度か来た記憶があっても懐かしむ余裕なんやなくて、此処は大阪ちゃうんやって毎回思い知らされる。東京に着いて駅から親戚の家を目指す風景は何でやか簫々を感じずには居られへんかったんや。
侑士の家が一歩一歩近付く度に自然と名前との会話は少なくなって、忍足の表札を確認してからインターホンを押す時には2人して黙りを貫いてた。
名前の気持ちはどうか知らへん。せやけど俺は、足に重しが付いてるみたいに重くてしんどくて、せっかく知り合えたのに別れが目前にあるかと思うと…侑士ん家なんや一生着かへんかったらええのにって、少なからず片隅にあった。
《はい、どちらさまですか?》
「あ、俺謙也です!叔母さん久しぶりやで!」
《え?謙也君!?ちょっと待ってな》
ピンポン、音が響けば簫々も無くなる懐かしい声が聞こえて玄関の向こうからバタバタ走ってくるのが分かった。そこで数十分ぶりに名前と眼を合わせたら、緊張を隠し切らん表情が見えて思わず眉を下げて笑ってしもたんや。
『謙也君!連絡も無しに来るからビックリしたわ』
「あー堪忍…ちょう気が向いて東京までフラーと出て来てん」
『へえ、何か大人になった様な台詞やねぇ?』
「十分に大人やからな。侑士居る?アイツ全然連絡つかへんねん」
叔母さんとの世間話は好きやけど今はこの辺りにしといて、名前が居る手前さっさと本題に入らなな。あんまり気は進まへんかったけど、思うよりスッと言葉が出た気がする。
『侑士なぁ、今は金沢に居てるよ』
「は、金沢!?」
『研修で1週間。明日の夕方には帰る言うてたんやけど…』
せやけど叔母さんから発せられた言葉は想定外で、通りで電話にも出えへんのかっちゅう納得も付いた。金沢って、お前タイミング悪過ぎやろ。この場合俺なんか?いや侑士やんな。
それでも良かったって、安堵する自分は最低なんやろうか。
『謙也君すぐ大阪帰るの?時間さえ平気なら泊まってくやろ?』
「気にせんで、こっちに知り合い居るからソコに泊まる予定やねんて。侑士には明日会いに来るわ」
『ほんまに?』
「また後で侑士に連絡入れてみるし」
とりあえず上がって行けっちゅう叔母さんの気遣いに首を振ってその場を後にしたら、隣では残念な様な落ち込んだ様子の名前が居てた。
「…ごめんな、結局今日もお預けんなってしもた」
『う、ううん!別に良いの!』
「せやけど楽しみにしてたやろ?」
『それはそうなんだけど…』
「けど?」
『まだ、心の準備が出来て無かったから、ちょうど良かったのかも…』
それって、俺は喜んで良えんかな。それとも凹むべきなんか?
“侑士にまた会える事が楽しみで、親しい仲やった言うても久々の再会は緊張して、心の準備を要する”
……それは凹むとこやんな。喜べる要素が見当たらへんもん。安堵してたんは俺の身勝手っちゅうやつや。
「…すまん」
『え?だから別に、』
「ちゃうねん。そうやない」
『謙也君…?』
「ちょっとな、自己嫌悪やで」
『、何で?どうかしたの?』
「ハハッ、何でもない」
まさか「会わせたくなかった」とは言えへんから。それより今日も先延ばしに出来て良かった、のが正確か。
『謙也君、仕方ない事だし今日は良いから』
「……………」
『その代わり』
「ん?」
『今日は2人でいっぱい話しがしたい』
「――――――」
満たされた気分やった。幸せで、足が地に付いてないみたいな感覚で、嫌やない浮遊感。
せやけど同時に浮かぶのは“怖い”、やっぱり侑士に会わせる事を渋りたくなる最低な自分は消えへんねん。
何でそんなに想ってしまうんやろ。
(20101104)
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