花火と同じ、
時間は短く儚い。
夏の空に君が咲く
bloom.9 あの時の約束を、
とりあえずは寝床を確保をせなあかんっちゅう事で、あんまり冴えへん頭を抱えてビジネスホテルへ向かった。予約も無しで下手したら野宿もあり得る覚悟やったけど幸い空きがあって寝床は完璧や。
こんな事なら叔母さんに甘えて侑士のベッドを占領したったら良かってんけど、今日が最後かもしれへんて考えると…名前と2人が良かったから。
せやから下手な嘘を吐いてでも断ったんや。
「名前、行くで」
『え、行くって何処に?今ホテル着いてご飯食べたとこだよ?』
「ええとこやから早よ早よ」
『、謙也君?』
相変わらず水しか要らへんっちゅう名前を置いてレストランへ行く気になれへんかった俺は適当なルームサービスを頼んで早々に飯を済ませた。腹もいっぱいになって邪魔な荷物も放ったら、名前の手を引っ張ってホテルの外へ。
温度も無いアイツの手やけど、確かに俺は暖かいと思った。端から見ればやっぱり俺1人しか存在してへんくてそれは寂しい事やけど俺には名前が見えるから寂しくないねん、明日侑士に逢うまでは。
『謙也君、これ何?』
「約束したやろ?花火や花火!」
『花火?こんなに小さいの?』
「あーこの間見たやつとは比べたらあかんけどやな…これは手持ち花火やねん、コイツも良えもんやで!」
『あ、凄い!何か出てる!』
「花火やからまんま火の花やな!」
『凄い凄い!綺麗!』
コンビニで買うた花火にチャッカマンで火を点ければ赤や緑を噴き出す。もう出来ひんやろって諦めてたけど、約束を守れて良かった。俺等からすれば見慣れたもんやけど名前にとっては初めても同然で、小さい子みたくはしゃぐ顔に嬉しくなる。
侑士ん事以外、記憶が無いのも本人はキツいかもしれへんけど俺が初めてを与えてあげられた気分は最高やってん。自己満足やねんけど、喜んでくれてる。それは確かやから。
『謙也君謙也君、これは?』
「それは線香花火やで」
『線香花火…』
「今までのより大人しいけど綺麗やねん」
『本当に?やりたい!』
「ええでー!ほなどっちが長く出来るか競争しよか?」
『え、長かったり短かったりするの?』
「じーっと静かに持たなポロッと火が落ちんねんて…」
『難しそうだねそれって…』
「せやなぁ名前には難しいかもしれへんな!」
『あ、アタシだけ!?』
「俺は得意やもん」
名前の希望した線香花火を互いに持ってゆっくり火を点ける。火薬まで火が上がったらパチパチと定番な音を出して2つ同時に花が咲いた。
『わあ…コレ可愛い、本当に花みたい』
「せやろ?手持ち花火も悪ないって思えるんはコイツのお陰かもしれへんな」
『うんうん!アタシ1番好きかも!』
「っちゅうか喋ってたら落ちてまうでー」
『大丈夫…、って謙也君のが落ちたよ?』
「……………」
何でやねん。
初心者の名前が最後まで出来て俺のはとっとと落ちてまうって。あれや火薬に不備があったんや、そうに違いないわ。
正直器用やないわりに線香花火だけは得意やったからな、そんな下手な訳ないし!にしても微妙に悔しい。
「もっ回や!もう1回勝負やで!」
『良いけど2連敗でも大丈夫?』
「阿呆か!次は勝つっちゅーねん!もう勝った気で居るとか甘過ぎやわマグレもさっきまでやで!」
『あははっ!そうなんだ』
「ほな2回戦いくで」
『いつでもどうぞ!』
結局、2回戦も俺が負けてしもて同じ会話が線香花火の数だけ続けられた。2連敗どころか全部が全部俺の惨敗で終わって「微妙に悔しい」から「めちゃくちゃ腹立つ」に変わってしもたけど、
約束覚えててくれて嬉しかった
その言葉が聞こえると顔がカッと火を噴いてん。きっともう一緒に花火なんや出来ひんのやろうけど、今日の事は忘れへん。
(20101110)
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