揺れる車内、
俺は1人やなかった。
夏の空に君が咲く
bloom.7 嬉しかった
「よっしゃ行くで!」
『はい!』
昨日と打って変わって快適に目覚めた朝、2日3日分の着替えを抱えて新幹線に乗り込んだ俺と名前は目的の東京を目指してた。
名前は目の前に居るのに切符を買うにも1人分で、新幹線に乗ったってタダ乗りやっちゅう視線も受けへん事がやっぱり、寂しいと思った。
「侑士の奴まだ繋がらへん」
『凄く忙しいんですね』
「っちゅうか俺やから後回しされてるだけかもしれへんけどな」
『ま、まさか仲が悪いとか』
「胸張って仲良しや!とは言えへんけど悪いと言えば悪いし、良いと言えば良いんやろか」
『あはは、つまり仲良しじゃないですか』
そういえば、名前は侑士逢うたら何をするんやろ。何を話したいんやろ。幽霊や言うたって此処に居る事は確かやし、侑士の傍で侑士と過ごすんかな。
それが当たりなら…名前とはもう今日でお別れなんや。
「……………」
『謙也君、どうしたんですか?駅弁のお姉さん来ましたよ』
「、ああ、駅弁!駅弁ひとつ下さい!」
愛想良いお姉さんに千円札と駅弁を変えて貰いながら、頭の中では深く侑士について聞くのを躊躇う自分が居った。それを聞いてしまえばもう終わりって、何となく思ったんや。
『美味しいですか?』
「…っちゅうか思てたんやけど」
『はい』
「敬語要らへんよ、歳近いんやろ?まさか俺が歳下やったら尚更やん」
『えっと、自分が幾つなのかなんて、分かんないから…』
「え?」
『な、何でもないです!だけど普通に話せるのは、嬉しいです…』
「……阿呆。まだデスマスやんか」
それ以上触れるのはあかんのかなって、流したけど。歳も分からへんて事は侑士以外、記憶が無い、とか?携帯も初めてとか言うてたし侑士の話ししか聞かされへんし、それなら納得が行く。
せやけど裏を返せば、それだけ侑士が、忘れらへん存在やねん。
あー。
なんやろ。心臓痛い。
「なぁ」
『はい…じゃなくて、うん』
「ハハッ!何言い直してんねん」
『だ、だって…』
「まあええわ、それより昔ってどんな生活してたん?」
『どんな…?』
「何か好きなもんとかあるやろ?」
『んー…好きなモノはやっぱり水、かな?あ、あと太陽!』
「太陽?」
『太陽に向かって手を広げたら気持ち良いから』
「分からんでも無いけど…名前は欲が無さ過ぎるんちゃう?」
『ううん、そんな事無いよ』
「そうなん?」
『今がそうでしょ?』
「……………」
結局、何を聞いたって侑士侑士。
俺は名前に侑士を逢わせる為に東京向かってるっちゅうのに、今は侑士っちゅう名前を聞くのが嫌んなってた。そんなん身勝手なのは知ってるけど、心臓が痛いんやもん。
「…増やせばええよ」
『うん?』
「今の名前は侑士が全てかもしれへんけど、これからもっと欲も増やせば良えって。せやないと人生損すんで?」
『あははっ!幽霊なのに人生って!』
「わ、笑うなや…」
『じゃあ例えば?』
「例えば、美味いたこ焼き食べたいとか、寿司が食べたいとか、可愛い服が欲しいとか、めっちゃ甘いケーキ食べたいとか」
『食べ物ばっかり』
「うっさいな!何でもええねん!些細な幸せこそ毎日の楽しみや!そんな馬鹿にすんなら俺が増やしたる、増え過ぎて欲求不満なったって知らへんからな!」
『――――――』
「と、すまん。無駄に熱くなってしもた…」
『ううん』
周りから見れば何を1人でブツブツ喋ってでかい声出してるんやって怪訝に思われた筈や。
でも、楽しみにしてるって、アイツが笑ってくれたから周りなんかどうでも良かった。例え今日でお別れやとしてもあの喜悦した笑顔が、俺は嬉しかったんやで。
(20101021)
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