もっと見せて、
なんては言えへんけど。
夏の空に君が咲く
bloom.5 眼に映る花火
向こうには女の子が居る、それが例え幽霊っちゅう存在やとしても色んな意味で緊張してたのに俺はいつの間にか眠ってたらしく朝を迎えた。
いつも通り身体を起こして洗面所へ向かうと『おはようございます』なんて聞こえて心臓が止まりそうんなったのも束の間、大学院に行ったあと早々に家に戻った俺は多分酷い顔やったと思う。
「ただいま…」
『あれ、早かったですね……って謙也君、大丈夫ですか?!』
「あかん寒い…風邪引いた…」
『す、直ぐに寝て下さい!お布団は朝起きたままなので早く寝て下さい…!』
「すまん、おーきに…」
名前の言う通り起きたままの状態を保ってるベッドを見ると何でお礼を言うとるんか分からんなったけど、とにかく憂色を見せてくるから良えかって。俺の彼女でも無ければ人でも無い。幽霊なんやから何も出来ひんのが当たり前やし、見ず知らずの男の部屋を漁る方がどうかしとるもん。
せやから、心配してくれてるだけ、それだけで嬉しい事やねん……―――
「……、」
『あ、起こしちゃいましたか?』
「今、何時…?」
『えっと、8時半です』
「俺そんな寝てた?」
『ぐっすりですよ、でもまだ熱あるみたいだから…』
「、」
完全に眼を開けるんも怠い、薄目で名前を確認するとピチャンと水音が聞こえて気が付いた。
ベッドの下には水の張った洗面器、俺の額にはヒンヤリ湿ったタオルが乗せられてあったこと。
「まさか、ずっとタオル冷やしてくれてたん…?」
『アタシには、これくらいしか出来ないから…料理も出来ないし、薬も買いに行けないし、役に立たなくてごめんなさい…』
「な、何言うてんねん!十分過ぎるやろ!」
『でも、謙也君が苦しそうな顔してるのに、何も出来なくて』
「俺は、嬉しかったで…」
あれから何時間経ったと思う?
ずっと傍でタオル冷やして、俺を眺めてたって、見ず知らずの他人にする事ちゃうやろ?
栄養ある料理なんや無くても薬なんや無くても、その気持ちだけで怠さが消える気さえした。
「何となく、侑士の気持ちが分かるで」
『え?』
「憶測やけど、名前んこと大事にしてたんやろなって」
『謙也君…?』
何で別れたんかとか、何で死んでしもたんやとか、知らへん事はまだまだ沢山あるけど侑士が名前を好きになる気持ちは分かる気がする。
とは言え、侑士の言うラブロマンスがどうのっちゅうのはよう分からんけどやっぱり恋愛とか彼女とか、そういうのは良えなぁって。
そんな事を考えてると外からドーンと低い音が響いて今日が何の日かを思い出した。
「名前、外見てみ!」
『え……、凄い…!』
「そういえば花火大会やったんや今日」
『アタシ花火見たの初めてです!凄い凄い、凄い綺麗…!』
「は、花火も初めてなん?せやったらもう少し近くで見せてやれたら良かってんけどな…すまんな」
『ううん、此処からも凄く綺麗に見えます!有難う謙也君…』
「―――――」
キラキラ輝かせる眼を見るとほんまに怠さも頭痛も寒気も飛んでった。多分俺は名前の笑った顔が好きなんや。もっと、見たいんや。笑かしてやりたいんや。
せやから、
「あんな大きいんは無理やけど、今度一緒に花火しよか」
名前を誘った。
(20101007)
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