きっと羨ましかった。
2人の関係が。
夏の空に君が咲く
bloom.4 本、横顔。
「……あかんわ繋がらへん」
コンビニから家へ戻って、お握りを頬張りながら侑士へ電話してみたけど生憎の留守電。『忍足侑士は私用に付き電話が取れません』てな、どうせメロドラマ見てるか小説か読んでるかのどっちかやろ。私用とか偉そうな事言うてんなや阿呆!電話くらい取れや!
『あの、侑士の家を教えてくれませんか…』
「教えて、どないするん?」
『直接行ってみます!』
「それは良えけど…東京と大阪やで?東京から彷徨って大阪来てしもた方向音痴やのに新幹線か飛行機乗って侑士の家まで行けるん?」
『が、頑張ります、』
「因みに電車の乗り換えやって何回もあんで?」
『………………』
「俺、明日は学校行かなあかんけど明後日まで待ってくれるなら連れてったるから」
『でも、』
「乗り掛かった船や、明後日まで我慢してくれるか?」
『は、はい!』
「、」
途端パアッと花が咲いたみたく歓喜を見せてくる名前に少しだけドキッとした。もし白石とかに聞かれたらきっと表現がダサいとか何やかんや言われんねんやろうけど、そう思った。
た、多分、嬉しくて笑うところを初めて見たからや。こう言うたら語弊があるけど、何や不幸の塊みたいにも思えてたから、こういう顔も出来るんやって……。
『謙也君、有難うございます!』
「え、あーうん、別に良えよ…」
『どうかしたんですか?顔が赤いけど、風邪とか』
「ちゃうちゃうちゃう!風邪とか無い!」
『ほんとに…?』
「ほんまほんま!じ、自分ほんま彷徨い過ぎや思っただけや!」
『え?』
「や、やってな、侑士ん家から此処まで何百キロ離れてる思ってんねん!市外の域ちゃうねんで!」
『えっと、こっちかなって電車乗ったりバス乗ったりしてると、いつの間にか…』
「あーもう方向音痴の感覚が分からへんあり得へん」
顔が赤いとか認めたくなくて、深い意味なんや無いって信じたくて話題転換してみれば名前はまた面白く笑い声を上げた。
小さい声やけど楽しそうなその声に釣られそうになったけど、
「何で笑うんや」
『侑士と喋り方が同じだから嬉しくて』
「――…元々は同じ場所に住んでた従兄弟やからな」
理由を聞くと何やろ。もっと別な何か…麗しいっちゅうか、対照に憂いっちゅうか。ちゃんと笑ってた筈やのに俺の顔は眉を下げてた。
「ま、とりあえず今日は寝よ!明日早いねん」
『はい、アタシには構わずゆっくり寝て下さい』
「、寝えへんの?ベッド使てええよ俺ソファーで寝るし」
『眠る必要が無いので大丈夫です、ベッドは謙也君が使って下さい』
「………そ、か。ほな明日学校終わったらまた話し聞かせてや?」
『はい』
ほんまはもっと話しをしようと思ってた。せやけどそれが出来ひんかったのは俺が、真実味が無いって生半可で構えてた事に嫌悪、した所為や。
それはトイレに行こうと立ち上がった時、真っ暗な部屋の中で誕生日プレゼントやっていつか侑士から貰ったふざけた純愛小説を眺める横顔を見て、漸く分かった。
侑士が関係するモノを見極められる情愛、そんなん見せられたら2人がどんなんが関係なんか知らへんでも、侑士から名前に与えた気持ちも本物やったんやって、俺にも分かってまうやんか…。
(20101004)
←