夏の空に君が咲く | ナノ


 


 02.



恍惚に思える星の煌めきは相も変わらず健在で。
せやけど今日だけは俺を嘲笑ってる気がした。


夏の空に君が咲く
bloom.2 流れ星に願いたい


昼間は雲も小さいものがポツンポツンとあるだけで快晴やったからか、陽が暮れた後も自己主張をした星が瞬いてた。
そんな夜。

(女の子、拾ってもた)
不安と動揺との二重苦で平常心なんて言葉を失ってた俺は縋る思いで財前へメールを送った。ちょうど3週間ぶりになる久しぶりの連絡がそんな内容やっちゅうのもふざけてるかもしれへんけど、これは酷いと思う。

(猫ですか犬ですかそれともイグアナですか)

人間や!普通の女の子やっちゅうねん…!
隣に本人が居れば突っ込んでやりたいのも山々やけど、隣に居らへんのにアイツの人を蔑んだ顔が鮮明に浮かんで来て、その腹立たしい反動から携帯をソファーへと投げ付けてしもた。


『す、すみません、アタシ何か悪いこと…』

「ちゃちゃちゃうねん!ちょっとな、ムカつくメールが来てん。その男ほんま性格悪いんやって」

『なら良かったです』

「堪忍な、急に携帯投げたりしたらビックリするわな」


反省反省、女の子が居るんやからもっと気配りせなあかん。それが出来る男やしな。
せやけど俺の部屋に知り合うたばっかりの女の子が居るっちゅう違和感は否めへんしやっぱりどないしたら良えんか分からへん。親には絶対言えへんし大学入って独り暮らしをしたんが幸いやったけどこの空間に俺等2人しか居らへんっちゅうのが返って……余計緊張するっちゅうねん!!


『あの、』

「、ん?」

『メールって何ですか?』


緊張、してる場合やないって?
なんやなんやなんや。メール知らんってどういう事なん?
俺の携帯片手に『初めて触りました!』ってはしゃぐって。今のご時世、携帯持ってへん子なんや居てるん?小学生でも持ってるんやろ?

………ま、まさか、名前が言うてた“家が無い”って冗談やなくて本気の本気の本気なんか…!!せやから携帯も持った事ないし買うお金も無い友達も居てへん、リアル家なき子……!それに人探しっちゅうんも自分を捨てて何処かに行ってしもた親、とか…。
あかん!益々どう接してええか分からへんなってきたで…!


『自分で触ったのは初めてなんですけど侑士が時々見せてくれてたんです』

「見せてくれてたって、触らせてはくれへんのかい!」


うん?関西人の性で普通に返してしもたけど“携帯を見せてくれる”相手が居ったっちゅうこと?
の前に侑士、とか言わへんかったか…?


「名前、今なんて…」

『時々見せてくれてたんです?』

「その前」

『初めて触りました?』

「その後」

『……侑士?』

「やっぱり聞き間違えとちゃう…!」


侑士?ゆうし?ゆーし?
聞き覚えあり過ぎるその名前って偶然、やんな?


「…その侑士って、眼鏡掛けてたりする?」

『伊達だって言ってました』

「……髪の毛もっさい感じ?」

『もっさい?青くて長めでした』


絶対あの侑士やんけ…!!
日本中どこ探したってもっさい頭の伊達眼鏡なんか侑士しか居らへん!!
となると探してる人っちゅうんもあの侑士になるのが落ちとして当然、なんやろ…?


「あ、あんな、名前が言うてた人探しは、」

『侑士です』

「やっぱり…」

『2年くらい、一緒に暮らしてて…』

「え゛え゛!?いい一緒に暮ら……!」


俺はそんなん侑士から一言も聞いてへんで!!2年も一緒に同棲してて黙っとるとか最悪や!っちゅうかそんな親しい仲やのに家も無い女の子を外に放り出すとか、携帯ん事とか、侑士が1番最悪や!
アイツ…たまにイラッとさせられるけど従兄弟の贔屓目無しに根は良え奴や思ってたんやけど…
頭痛くなるわ。


「名前、俺その男知ってるわ…」

『ほ、本当ですか!』

「ほんまほんま、ほんまやけど少し頭整理させて」

『は、はぁ』

「その間にご飯でも食べよか…作るん面倒臭いし外で済まそ、奢ったるから」

『、』


全部上手い事纏めるには時間が必要や。今こそ美味いもん食うて冷静になる時やんな。
それからもっとちゃんと名前の事も侑士の事も聞いて、その上で侑士がほんまに最低最悪な男か見極めなあかん。(ほら、やっぱ恋愛って色々あるって言うしやな)


「どないしたん?早よ行くで」

『アタシは、ご飯、要らないです…』

「今更遠慮とかええって!」

『いえ、食べられないので』

「まさか拒食症っちゅうやつ?せやからそんな細い身体してるんか?」

『ちが、アタシ、もう、死んでるから…!』

「あーそかそか!もう死んでるん……か………?」

『そうなんです…』


んな阿呆な。
それこそ冗談やって言って欲しい。
もし今、流れ星を見たなら俺はそう願うやろう。


(20100813)


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