夏の空に君が咲く | ナノ


 


 10.



逢いたい、
秀麗な微笑みは心臓を貫く。


夏の空に君が咲く
bloom.10 懐かしい顔


花火もあっちゅう間に終わって、散々はしゃいだ後はええ時間になってた。1人の時は1分すら永く感じる時があんのに、楽しい時間って一瞬や。そういやテニスの試合やってそんな感じやった気がする。自分が勝った時は興奮してるし気持ちええねんけど、負けた時なんや何を口にしたら良えかも分からへんかったし、体力も無くなるほど永い時間が終わってしまうと僅か過ぎて。あの時ああして動いてたらとか、あの場面に戻れたらって、遅い後悔ばっかしたんやったっけ。

ソレと比較するんもどうか思ったけど、どうしたって時間っちゅうのは呆気なく過ぎてくんやなって感じずには居れへんかった。
せやからベッドに転がったって、眼瞑たって寝られへんくて。そんな俺を見兼ねてか、名前から『もう寝た方が良いよ』なんて聞こえると、同時に携帯が1通のメールを受信した。


「、侑士からやで」

『え、本当に?』

「ほんまほんま、えっと…明日昼以降に家来い……って業務連絡かっちゅうねん!」

『侑士っぽいようなそうでもないような』

「自分が話したい事ある時はダラダラ文章打つねんて!そやなかったら適当、何度も連絡したっちゅうのに俺を何や思ってるんやろな!」

『なんか、仲が良いって感じだよね』

「何処がや!って言いたいとこやけど実際イトコ同士にしては仲良え方なんやろな…タメやし部活も一緒やったし…」


世間話みたいんなってるけど、これで明日名前と侑士を逢わせる事が決定付けされたんや。もう、先延ばしにはされへん。
ベッドに凭れる姿勢で笑いながら肩を揺らす後ろ姿を見ると、一気に簫々な思いが溢れた。


「…名前」

『うん?』

「ほんまに、侑士に逢うんやな…?」

『…うん』

「話したい事、決まったん?」

『何となく、かな』

「そか。ちゃんと名前の気持ち、伝えられたらええな」

『うんありがとう』


ほんまは引き止めたかった。行くなやって、言いたかった。せやけど俺が言える筈ないやんか。名前ん事何も知らへん俺が、ほんの数日で好きになったからって止める権利なんか無い。
侑士やって名前を想ってるかもしれへんのやから。ほんまに好きやったら、たかだか2年で忘れられる訳ないやん…何より、振り向き様にありがとうって言うた名前の顔を見たら、どう間違えても言える訳が、無い。楽しみで、嬉しくて、幸せそうなあの表情。例え俺が感謝される事があっても、あんな顔させる事は出来ひんのやから。

名前には聞こえへん様に大きく息を吐いて布団に潜った俺は、せめて、明日が名前んとって良い日になればええって、裏腹な願いを浮かべるだけやった。

そして翌日、午前10時のチェックアウトを済ませるなりゆっくりと侑士の家の方角を目指した。指定されたのは昼以降やったけど特に用事も無い上に下手に移動すると時間喰うから。名前を思うなら、少しでも早く侑士に逢いたいやろって。


『……謙也、君』

「ん?」

『本当に侑士に逢えるかな…』

「なんや?まさか緊張してきたとか言うんか?」

『だ、だってアタシ幽霊だし…気持ち悪いって、思われるかも…』

「阿呆か!一緒に生活してた女の子やで!?もう逢われへん思ってたのに逢えたら嬉しいに決まっとるやろ!」

『、』

「す、少なくとも俺やったら、めっちゃ幸せ、やで…」


それは俺の場合の話しやけど。侑士も多分同じやって。侑士は特にロマンチストやし、泣いて喜ぶんかもしれへん。でも、それを伝えるには上手く声が出えへんくて。
ここまで来てもやっぱり俺は二の足踏んでるんやと分かった。こんなん思てもしゃーないのに、なぁ。


『あ、あのね謙也君!』

「え?」

『――…ごめん、何でもない』

「なんやそれ!気になるやんか!」

『良いの良いの!気にしないで――』

『あ、謙也やん…』


名前が何かを言いたそうに言葉を詰まらせた瞬間、それをも塞ぐ様に声を重ねたのは俺が良く知る声。振り返らへんでも分かる、相手やった。


「侑、士…」

『俺昼過ぎや言わんかったか?まだ11時やで、早いっちゅうねん…』

『――――――』


久しぶりに見る侑士は幾分大人な空気を纏ってて、研修帰りのでかい鞄を担いでた。相変わらず独特の気怠そうな喋り方だけは何も変わってへんくて、懐かしさに浸りたかったけど……息を飲んだ名前を前に、そんな気持ちも無くなった。


「………………」

『何や?いつも喧しい謙也が黙りこくってるって気持ち悪いねんけど…』

「な、なんやそれ…侑士こそこんなとこで何してんねん!駅から家帰るのに道可笑しいやろ!」

『ああ、待ち合わせや…』

「はあ?待ち合わせ?」

『まあそれは後で説明するわ…それより謙也、独り言がでかいやろ…』

「、は?」

『道端でベラベラ1人喋ってる男が居る思たら身内やってビビったっちゅう話しやで…こっちが恥ずかしくなるわ』


今、なんて?
1人で喋ってる…?俺が独り言…?
言われてみれば侑士の視線はさっきからずっと俺だけに向けられてて、名前の方なんや気にしてない。まさか、侑士、


『それにしても謙也1人で東京ってどないしたんや?東京に彼女でも出来たんか?』

「っ――!」


侑士は、名前が見えへんの……?


(20101205)


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