俺様シリーズ | ナノ


 


 05. oneday/4月14日



ついに今日でバイトが終わっちゃう。
アイツに会えなくなるなんて嫌で嫌で、昨日の夜は泣きそうだった。

自惚れかもしれないけど。
アタシは結構善い感じなんじゃないかって思ってて。だけど言葉にしなきゃ伝わらない。
今日で最後なんて嫌だ。
だからアタシは言う。
素直に、好き、って。

バイト中、客や叔父さんが居ないのを見計らって丸井ブン太に声をかけた。


「あ、あのさ、」

『ん?なんだよぃ』

「バイト終わったら、話、あるんだけど…」

『…………』


沈黙とかなに、なんか言ってよね!もしかして明らか告白ーって感じでアレかな、でも他に言い様がないし…


「ま、丸『ソレってそうゆう話?』」

「あ、うん…」

『悪い、無理』


“無理”
アタシ、告白する前に振られたの……?
何で…?
告白くらいさせてくれてもいいんじゃない?
自惚れて、1人で舞い上がってた罰?
そんな…


『話は聞きたくない、けど、』

「…?」

『付き合ってほしいとこ、あるんだけど』

「、はぁ」

『お前に拒否権ねぇけどよぃ』


なんなの、それ…
振っておいてそんなの酷じゃない!?
アタシも気持ちも考えてよ馬鹿!
…でも、断れないアタシはもっと馬鹿だ。今より惨めになるかもしれないのに。


  □


『名前ちゃん、本当にありがとうね!5日間助かったよ』

「ううん、アタシ全然使えなくってごめんね叔父さん」

『そんなことないよ。じゃあこれ少ないけどお給料』

「うわーありがとう!お小遣いにさせてもらいます」

『どうぞ。また何かあった時は宜しくね』

「了解でーす」


5日間のバイトが終わって、叔父さんに挨拶をすませた。
手渡しの給料って、振り込みより貰った感があってなんか好き。
欲しいもの、いっぱいあったんだよね。これで買おうかなーなんて給料を握り締めてると、グイッと腕を引かれた。


「あ、丸井、ブン太…」

『、行くぞ』


そう、だった。約束してたんだった。
忘れてたわけじゃないけど…
何処に行くんだろ、何話せばいいんだろ。ちょっと怖い…


「……………」

『……………』


丸井ブン太が歩いて行くのを後ろから着いていく。
2人共黙りこんじゃって何話していいか分かんないし、話かけるような雰囲気じゃないし、これからどうなるのかって考えたら怖くて仕方ないけど、アタシの心臓は昨日みたいにドキドキバクバク煩くって。

周りから見たらアタシ達どんな風に見えるんだろ。とか。
ゆっくり歩いてくれるから、アタシに合わせてくれてるのかな。とか。
アイツの真っ赤で猫っ毛な頭、やっぱり好きだなー。とか。

なんかアタシ、単純ってゆうかなんてゆうか…
こんな時に何考えてんだろ。

ドンッ!


「ぶっ!!」


そんな事を考えてたら急に立ち止まる丸井ブン太。
上の空だったもんだからアイツの背中に突っ込んじゃったじゃない。


「なによ、急に止まんないでよ!」

『………』

「付き合ってってここ?ただの公園じゃ―――」


あれ、この公園、来たことある気がする―…
象の形をした小さな滑り台を目にした瞬間、アタシの脳裏に何か過った。

  * *

『、ちくしょう!』

「ねぇ、何してるの?」

『!!…なんなんだよお前?』


アタシが中学1年生の時。
学校帰りに公園に寄り道したくなった日があった。
そしたら公園から男の子の声が聞こえて。
普段なら絶対話かけたりなんてしないけど、何故か放っておけなかった。
泣いていたのか、アタシが声をかけると彼は目を真っ赤にしてアタシを睨んだ。


「別に、なんとなく声かけただけ」

『ハッ!意味分かんねぇ』

「これ、あげる」

『…は?』


慰めるとか同情とかそうゆうんじゃなくって、そんな考える暇なんてなく、ポケットにあったグリーンアップルのガムを差し出した。
なんでだろ。何でか分かんないけど。


「美味しいよ?要らなかった?」

『……要る。』

「お礼はアタシのこと覚えててくれたらいーよ!」

『は、ちょっ、待…』

「アタシ名前ってゆうの!じゃあねー」

 * *

そういえば、あの時はこの公園で……
彼は元気かな。
赤い頭に赤い目で、今思うと面白いかも。赤ばっかり!
………待って。待て待て待て。
赤い、頭…?
それにここに連れて来たってことは、まさか……


『…何も覚えてねぇの?』

「まさか、あの時の男の子、」

『やっと思い出した?』


嘘、あれは丸井ブン太だったわけ…?
そんな偶然…


『これ、』

「あ!」


丸井ブン太はおもむろに手を差し出した。
その手のひらにはあの時の
グリーンアップルガム。


『あん時、俺初めてテニスの試合で負けて。すっげー悔しくて悔しくて。もうテニスなんて止めようと思ってた』

「…………」

『でもさ、お前がくれたガムのおかげで、頑張ろうって思って』

「嘘…本当、に?」

『うん。元々このガム好きだったけどさ、あの日からすっげー特別になったわけ。このガム見る度にお前のこと思い出して、また会いたくて。そしたらお前がバイトに現れただろぃ?俺は一発でお前のこと分かったのに。』


自分が覚えてろって言ったくせに、お前すっかり忘れてるじゃん?丸井君、なんてよそよそしく呼ぶから意地悪しちゃったじゃん。
そう、言われた。
嫌だ、何よそれ。
アタシのことずっと覚えててくれたの?


『もう、忘れられんの嫌だから印象強く残してやろうと思った』


…だから、俺様を演じてたってこと?


「なによ…馬鹿じゃないの…」

『馬鹿でいい。俺、あの時からお前のこと好きだった』

「丸『ブン太』」

『ブン太って呼べよ』

「ブ、ブン太…」

『ん。何、名前?』

「アタシも、好き、だよ…」


あの日から、アタシを想っててくれたブン太。
もう何年も何年も経ってるのに。あんな些細なこと覚えててくれてるだなんて。
それに、初めて、名前呼んでくれた。

名前、呼ばれたら、涙が溢れてきちゃって。だって、こんな告白、感動しないわけない。
ブン太、超格好良い。


『なに泣いてんだよぃ』


ふわり、と甘い匂いとブン太に包まれると、もっと溢れてた。


「仕方ない、じゃない…嬉しいんだもん!」


ブン太の腕の力が更に強まって、


お前
どれだけ俺のこと
好きなんだよ


(アタシもぎゅっと背中に回した手に力を入れた)
(もう俺様でもなんでもいい)
(ブン太の俺様はアタシだけに向けられたものだもの)
(もう貴方を忘れたりなんて絶対しないから)


(2009)


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