03. oneday/4月14日
バレンタインデーなんてまだまだ先の話しだけど、女の子から見れば年に1度だけの特別な日だって事に代わりなくて。その中でも人一倍、気合いが入った友達が言い出した事、それが月に数回お菓子作りの練習を兼ねて皆で交換しようっていう何とも女の子女の子した行事がちょうど今日だった。
『はい、今日はシュークリームです』
「しゅ、シュークリームって!凄いね…」
『昨日暇だったしクオリティ上げてみようかと思って』
「うん凄いよ、有難う…」
学校へ行くと可愛くラッピングされたお菓子が渡されて、シュークリーム始めガトーショコラだとかチーズケーキだとか回を重ねる毎に周りはグングン腕とレベルを上げていく。いっそのこと皆はパティシエでも目指せば良いと思う…。
アタシなんか昨日は部活行かなかったって言ってもクッキーが精一杯だし、何処かでバレンタインは諦めてたこともあって他人事みたく感じて人に感心を向けるだけだった。
保冷剤付きで冷やされたシュークリームを一口噛ると、今日だけはアタシもこれくらい器用だったら良いのにって。友達分とは別にラッピングした自分のクッキーを見つめながら口を曲げずには居られなかった。
『朝からシュークリームって、よう食うな』
「、ユウ君」
『それやから肉付きが良えんか納得』
「ちょ、アタシこれでも最近2キロ痩せたんだけど!」
『名前が2キロ痩せてもな』
「ひっどー…」
朝練から一足先に教室へ戻ったアタシを見たら、シュークリームを羨む訳でも無く大爆笑するユウ君は本当に…本気でアタシを太いって思ってそうで嫌んなる。
甘党の光だとか、女の子に優しい蔵だったならもっと違う言葉をくれるんだろうけどとことん素直過ぎて良い性格してるよね。
『っちゅうか女ってそういうん好きやなぁ!』
「そういうん?」
『菓子作ったりとか。買うた方が楽やし美味いやん』
「………………」
良い性格してるユウ君は女の子の気持ちを理解して無いどころかバレンタインすら興味無さそうで。
実はユウ君宛てにもクッキーを用意してました、なんて口が避けても言えなくなった。
だって、昨日はお願いした訳じゃなくとも部活サボって山田君の家まで付いて来てくれて、送ってくれたんだもん。口では悪態付いて厭なことも言われたけどやっぱり嬉しかったし。
少しでも気持ちが伝われば良いなって、今日ばっかりはユウ君の為にクッキー焼きましたって不器用なアタシでも結構頑張ったけど…「ユウ君にもあげる!」とか言える筈が無い。
『は?』
「え?」
『お前今、何か隠したやろ』
「、隠してないし」
『嘘や絶対隠した』
「隠してないってば!」
『良えから退けや阿呆名前!』
「ちょ、ユウ君、止め、」
自分が作ったモノを捨てるのは流石に切ないから、後で蔵か光か小春ちゃんにでも配ろうってコッソリ机の中にクッキーを突っ込んだのにユウ君てば目ざとい…!
無理矢理に椅子から押し退けられると怪訝な顔してラッピング袋を見つめてた。
あーマズい…!あれにはユウ君へ、とか書いちゃってるんですけど!
『……………』
「あ、あの…」
『これお前が?』
「え、いや、それは、その…」
『フーン』
「ちょ、ユウ君!開けないで!返してよ!」
眉間に深いシワを作ったまま乱暴に袋を開けるとそのままバキバキ音を出して食い漁る。
クッキーなのにバキバキって、音が可笑しいし、ユウ君はそんなの興味無くて嫌なんじゃないの?
食べてから不味いって爆笑する落ちなんか要らないから!ねえ!
「えと、無理に、食べなくても…」
『1個食うただけで腹壊しそうなくらい不味いし固い』
「ご、ごめん…」
『せやけど何で俺にもあるん?まさかほんまに下剤でも入っとるとか』
「はは入ってない!き、昨日の、お礼で、皆に作ってあげるついでだよ!」
『………………』
昨日は有難うって素直に言うつもりだったのに。だけど不味いとか固いとか文句言われたら誰だって…
でも1個だけでも食べて貰えて良かったって思うべきか、更に厭味が振って来るだろう覚悟を決めるべきなのか、ユウ君を直視出来ないで居ると、
『しゃーないから後で食うわ』
「へ…?」
『なんやねん今食わなあかんのか』
「そ、そうじゃなくて…貰って、くれるの…?」
『は?阿呆か!俺のや言うたやろボケ!』
適当にクッキーを包み直すユウ君の手が見えて。
なんか、上手く言えないけど心の中がぽっと暖かくなった。やっぱり、最後には優しいんだ。
喜悦に浸りながらも呆気に取られた様なアタシだけど、それを見て今度はユウ君の顔がぼっと真っ赤に変わる。
『、名前の阿呆!ボケッ!』
「、」
『今回だけやからな!二度とこんな変なもん寄越すなや!』
ガリガリと頭を掻いてぶっきらぼうにクッキーを鞄へ投げるけど、ユウ君の背中が可愛く見えた。
勿体無いから貰ったる!
(それでも嬉しいんだよ)(そう言ったらもっと赤くなるのかな)
(20100712)
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