02. oneday/4月14日
『なぁー、阿呆名前』
「何?」
『まだか!いつまで歩かせる気やねん!』
「まだ5分しか歩いてないくせに!」
担任から無理矢理押し付けられた用事、勝手に付いてきたのは自分でしょ?なのに何なのこの態度は。たった5分歩いただけで『遠い』『怠い』『ウザイ』ってね、仮にも運動部で鍛えてんだからそれは無いでしょうが!だったらそもそも付いて来なきゃ良いじゃんか。
『阿呆名前』
「今度は何!」
『喉渇いた』
「は?」
『ちょうど良えとこに自販があるなぁ!アイツ俺にジュース飲んで欲しい言うてんでー』
「…自販機は喋らないから」
『えー何て?今日はまだ1缶も売れてへんから辛いって?頑張って冷やしてんのに誰も買うてくれへんて?せやなぁ俺も買うてやりたいんは山々やねんけど生憎財布ん中10円しか入ってへんし』
「分かったから!買えば良いんでしょ買えば!」
今月服と化粧品買っちゃってお小遣いピンチなアタシが何で、責められる言い方されてジュースを奢ってあげなきゃいけないの…!しかもユウ君が選んだのジュースじゃなくて水だよ水、水道水でも飲んどけば良いじゃん!
『名前』
「………………」
『名前ー』
「………………」
『ボケッ!』
「、いだっ!何なのもう!頭殴らないでよ!」
『どう考えてもシカトこいたお前が悪い』
「…だからってグーで殴らなくても良いじゃん」
これ以上ユウジ節を見せられても困る、そう思って無視を貫こうと決めたけどそれが通じる相手な筈もなく。か弱い女の子に手を出すなんて信じらんない。
ジンジン痛む頭を擦りながら恨めしく視線を向けると水が入ったペットボトルで何かを指してて。お願いだからもう変な事は言わないでよね…!
『此処ちゃうん?』
「、え?何が?」
『ほんま阿呆女やな、そやから阿呆や言うねん』
「はぁ?何でそんな阿呆阿呆言われなきゃなんないの―――、あ」
『阿呆はこれも見えへんのか』
ユウ君が指した先には山田という表札と今風の可愛い家があった。
私欲しか頭に無いと思ってたけどちゃんと山田君の家探してくれてたんだ、ちょっと意外。ううん、かなり意外。
先生に渡された地図と合わせても間違い無さそうだし、たまにはユウ君も役に立つんじゃん!水くらい買ってあげて正解だったかなぁ、なんて見る目を変えてあげたのも束の間。
「っ、いったー…!」
『ボケッとしてないでさっさとプリント渡し来いのろま』
「だから!一々殴らないでそう言えば良いでしょっ!」
『またシカトされるか思ってんなぁ!』
ゆ、ユウ君て根に持つタイプなんだ。男のくせに小さいんだから…!
本当、さっさと用事を済ませてユウ君を黙らさなきゃアタシがヒステリックになりそうなんだけど。
とりあえずこの場は堪えて、急な訪問に驚いてた山田君にプリントを押し付けたら早く家に帰ろうと足を進めた。
『山田の奴やっぱりビックリしてたやん』
「そりゃ仲良くも無いんだから家に来たらビックリもするよって」
『明日も休みやったら確実に名前のせいやで』
「ち、違うし!アタシのせいじゃないってば!」
『俺やったら風邪が悪化して1週間は寝込んでまうな!』
「煩いな…!大体どこまで付いてくんの!?もうそこ、アタシの家なんだけど!」
口が減らないユウ君に脱帽気分だし、そこまで言われるアタシ自身も何なの本当に…!
こんなんじゃいつまでたってもユウ君に告白なんか無理ってもんだし寧ろユウ君に女の子だって思われてるかもどうかも危ういんですけど。……哀しくなってくるねほんと。
『フーンあそこが名前の家か』
「そうだよ、もうアタシ帰るからね」
『ほな俺も帰ろ』
「え、」
ユウ君だから茶菓子出せの一言くらいあるんじゃないかって。
普通に何も言わないで帰るの?なんか変な感じ、拍子抜け。
『あーそやコレやるわ』
「、チョコボール?」
『水買うて貰たしこれで貸しはチャラやで』
「………………」
ポケットから投げられたチョコボールは封も開いてのに箱が潰れてて。それがユウ君ぽくて笑える。
それに、送ってくれた、って事でしょ?なんだかんだ言って義理堅いとこ、好きな理由のひとつだって知ってる?
『今日は帰って寝るか』
「ゆ、ユウ君!」
『なんやねん』
「あ、ありがと、チョコボールも、送ってくれた事も…」
『はあ?』
「だ、だからありがとうって言ってるの!」
『誰が!お前なんや送る訳ないやろ!勘違いやで勘違い!ほんま阿呆や!阿呆過ぎや!いっそ阿呆子に名前変えろ!』
またそんな事言って酷いんだから。
そう思っても口にするつもりが無かったのはユウ君の顔が物凄く赤くて赤くて、怒る気持ちも失せちゃうくらい可愛かったせい。
それでもありがとうって伝えたらもっともっと赤くなった。
特別とか思うなや?
(切ない言葉な筈なのに)(嬉しいのは何でだろうね?)
(20100706)
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