02. oneday/4月14日
顔はメチャクチャ善い。
性格は最悪俺様主義。
名前は丸井ブン太。
昔から顔が善い男はろくな奴が居ないって聞いてきた。
そんな男、願い下げだって思ってたのに昨日から頭に浮かぶのはアイツの顔で。
必死に違う違う、気になってなんかないって言い聞かせてる。
アタシはムカついたから頭に浮かぶんだ、って。
『おい。これやっといて』
「何?」
『伝票処理』
「はぁ?そんなの昨日の今日で出来ないに決まってるじゃない!」
『メモに書いてる通りに発注するだけだろぃ。なに、そんなことも出来ねぇの?』
「分かったわよ、やりゃいーんでしょ!やりゃー!」
『あたりまえー』
本当いちいちムカつくわね!
他に言い方ってもんがあるでしょこの野郎!
今日も丸井ブン太はえらそうで。
やっぱり、嫌い。
□
「よし、あと5分で終わりだ」
発注も終えて、時計に目をやるともうバイト終わり5分前。
今日も疲れたーって伸びをすると、丸井ブン太と目が合った。
しまった。またなんか言われそうじゃない。
『もう5分であがりじゃん』
「そーよ、今日もお疲れさまでした!」
『おう、お疲れ。っつーか俺も今日はあがり一緒だし。……あのさ今日『丸井君丸井君!!ちょっと!』』
丸井ブン太が何か言い掛けたその時、裏から親戚の叔父さんがなんだか慌ただしく呼んで丸井ブン太の声はかき消された。
『はい、なんスか?』
ど、どしたんだろ。
叔父さんはいつも穏やかでマイペースだからこんなに慌ててる感じ、珍しい。
『今日の発注数間違えた!?』
『え?』
『いつも通り10個のはずが100個で受理されてるんだけど…あーもう困ったな』
え?嘘!
叔父さんの言葉にぎょっとして、アタシは急いで伝票を見直した。
「あ…」
伝票には確かに10とゆう数字が書かれてて。
アタシ、100って注文した記憶がある。
嫌、ど、どうしよう。とにかく謝らなきゃ!
「叔父さん!それはアタシが…『スミマセンでした!俺が間違って注文しました』」
「―――!!」
『丸井君困るよ。いつも10個だから分かってるはずだろ?』
『スミマセン!』
アタシが叔父さんに駆け寄ろうとしたら、丸井ブン太はアタシを遮って叔父さんに頭を下げた。
な、んで…
アンタのせいじゃないじゃない。
アタシが、発注、したのに…
『これから気を付けますので!本当にスミマセンでした!』
アイツはひたすら深々と頭を下げてて。
どうしてよ。
アタシなんか庇ってどうするの?
アンタ性格最悪なんじゃなかったの…
なんだか目がすっごく熱くなった。丸井ブン太の馬鹿野郎……
□
――ガチャ、
「あ、やっと来た。お疲れ」
『は?お前何で居んの?』
あれから時間通り先にあがったアタシは丸井ブン太を待ってた。
その間も丸井ブン太は怒られてて。あがりの時間から1時間たった今、やっと店から出てきた。
庇ってなんて頼んだ覚えはないけど一言お礼が言いたかったの。
『別に!アタシが何処にいようがアンタに関係ないでしょ!』
なのに。
何でこんなこと言ってんのよ!
これじゃぁお礼どころじゃない。アタシの馬鹿馬鹿!
『……あーそうゆうこと?』
「え?」
『待ってたんだろ?』
「―!!ち、違っ…!」
あああ゛ーー!!!
ビンゴ、ビンゴなんだけど。
そうゆう風に言われたら肯定なんて出来ない!
また惚れてるだなんて言われそうじゃない!嫌だ嫌だ止めて!
『おーい。顔真っ赤。』
「う、うるさいわね!アタシは用事があったの、だからアンタはついでよついで!」
『…フーン』
「一応、礼言っとくわ!さ、さささ、さっきはありが、と…」
も う い や だ
絶対顔赤いし!ゆでダコみたいになっちゃってるし!
こんな奴にお礼言いたくないし!
超ーっっ癪!
『こっちこそサンキュー』
「……は?」
えっと…ちょ、待って。
サンキュー?
からかわれると思ってた分、思いがけない丸井ブン太からの言葉にアホみたいな声が出てしまった。
そんなアタシの様子を見てプッとアイツは吹き出した。
『わざわざ待たせちゃったなー、』
「だっ!だから!違うって…」
俺のため、だろ?
(この男に何を言っても駄目だ)
(否定、したいのにこんな顔じゃ)
(肯定と変わらないもの)
(でも嫌いじゃない、かもしれない)
(2009)
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