04. oneday/4月14日
光のくせに優しくて暖かい手は、柔らかい風が包んでくれる様な心地良い浮遊感をくれた。
「……………」
『その顔、また変顔って言われたいんです?』
「そ、それは、」
『ほんま単純な女』
「、」
単純でも仕方ないじゃん。
光にとって変顔は可愛いって事だって聞いちゃったんだから、喜ばずにいられないし。光に可愛いって思われてるならそれだけで幸せっていうか、それ以上の言葉なんか見当たらない。
『さっきまでビービー泣いてたくせに忙しい人すわ』
「だ、駄目なの」
『別に良えけど…』
「え?」
(誰にでも無防備な顔見せるのは気に入らへんのですわ)
アタシの左耳には生温い吐息が伝って、首に回された光の手は右の頬っぺたを引っ張ってくる。
頬っぺた、痛いけどそれより、無防備な顔って…?謙也の前で泣いた事を言ってるの?
「ひ、ひかる」
『俺以外の男に気許し過ぎ』
「ひか、」
『他の男の前で泣いたって、俺は居らへんのに』
頬っぺたをブニブニ引っ張られたまま今度は顔を覗いて同じ高さで視線をぶつけられる。
距離だって近い、同じ目線だって初めてで、極め付けは光の甘い言葉。直訳すれば光の前以外で泣くなっていうそんな言葉にアタシの心臓は限界を訴えるみたく尋常じゃない鼓動を続けて、それに加えてもしかすると光から告白があるんじゃないかって。そんな期待を抱けば顔が引きつらせながら次の言葉を待ってしまう。
つ、ついに念願の告白?
いざその時が来たら来たで緊張してどうしたら良いのか分かんない…光から好きって聞いて、アタシも好きって言って、それから彼氏彼女になって…
ああもう、想像しただけで歓喜いっぱいで普通に出来る気がしないんだけど!
『名前先輩』
「は、はははい!」
『俺は』
ごくり、生唾を飲む音が鮮明に聞こえた瞬間、
『そんなん言ったって意味無いんですけど』
きたきたきた、ついについにきた…!
悦びを拳にして「アタシも!」なんて言おうと思ったのに、あれ…?意味無いって、何の話しなの?
『俺の言うた事なんや忘れて下さい』
「、え?」
『俺は名前先輩の後輩なだけなんで』
「――……………」
“口約束があるのと無いのは違うやろ?”
蔵の言葉が光と一緒に聞こえて来た気がした。付き合って、ないから何も言えないって?付き合ってないから言葉に意味は持たないって?
散々期待させといてそんなの無い。付き合うっていう口約束がそんなに大事?大事、なのも分かってるけど…分かってたからアタシだって付き合いたいって思ってたんだけど…
あんな突き放す言い方って無いと思う。
『あーあ、また泣いとるし』
「う、煩い!」
『泣く理由って、俺のせいなん?』
「、」
『俺が“後輩なだけ”って言うたから?』
「そ、そんなんじゃないもん!違うもん、アタシは、眼にごみが入ったから!」
こんな時でも虚勢張ってどうすんの。アタシが素直に好きって言えば何か変わったかもしれないのに。
『……それで良えすわ』
だけど光は小さく笑って『俺の前で泣けばええねん』アタシをぎゅっと抱き締めた。
素直やないとこも可愛えすわ
(光は、アタシが好きなの?好きじゃないの?どっち?)
(20100531)
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