02. oneday/4月14日
お日様の光りも春らしく暖かくなって、それでいて風はひんやり心地良い。スポーツには持って来いの鮮やかな青の下でアタシはただ1人惚けた顔してテニスコートを眺めてた。
『季節と一緒に名前も春ボケしてるん?』
「え、何それ春ボケって」
『何となくは分かるやろ?』
「光の事考えて好きだとかもどかしいとか悩んでるのがソレだって言いたいの?」
返事の代わりに息だけ漏らして笑った蔵は楽しそうにアタシと光を見比べた。
本当に光が好きで彼氏彼女になりたいって思うなら回りくどい事なんかしてないで素直に一言伝えれば良いのに、どうせならって慾を張るから前に進めなくて地団駄するだけなんだよ。それは自分が1番分かってるけど、人の気持ちに敏感な蔵はそんな子供顔負けのアタシが面白くて仕方ないんだと思う。
「さっさと告白すれば良いのにって思ってんでしょ」
『うーんどうやろ、まぁ俺から見れば付き合うてる様にしか見えへんからなぁ』
「、本当!?」
『めっちゃ仲良えやんか』
「そそんな蔵ってば!アタシ恥ずかしくなっちゃう!」
『名前のそういうとこが可愛いと思うで』
煽てたって何も出ないよ、なんて思っても蔵の言葉に嬉々としてニヤける顔は止まんなくて幸せを噛み締めるみたいに下を向いて歯を噛み締める。
光もアタシの事可愛いって思ってくれてる?だったらどうしよう!世界はアタシを中心に回ってるとしか思えない。
『せやけどなぁ?』
「うん?」
『言葉が必要なことってあるから』
「え?」
『ほんまに大事なのは心やねんけどな、“付き合う”っちゅう口約束があるのと無いのは違うやろ?』
浮かれるのも束の間で、最もらしい答えを並べられると上がった口角も下へ落ちていく。
付き合ってる、形がないものだとしても誓約があるのと無いのではアタシの立ち位置は全く別物。こんな事考えたくはないけど例えば光が他の誰かと付き合う事になったとしてもアタシには何も言う権利は無い訳。先輩後輩として、友達として、おめでとうって言わなきゃいけないんだ。
「………………」
『こらこら、そこは落ち込むとこちゃうねんで』
「だって蔵が」
『ごめんな意地悪言うたんちゃうんや、頑張れって言いたかったんやで』
「…分かってるよ」
眼に見えて凹んで不貞腐れるアタシの頭をポンポンと撫でられると無性に愛が欲しくなって。どうせまた玩具で遊ぶみたいにからかわれるのは分かってるけど向こうで筋トレする光の背中に自分の背中を合わせた。
『腹筋してたんやけど見て分かりません?』
「それが何」
『うわーさっきより捻くれてますやん』
「さっきは捻くれてないし!」
『今は認めるんや』
グイグイ背中を押してくる光にアタシも負けじと押し返して、それでも光の方が力が強くて必死になる。どうでも良い、っていうか意味の分からないやり取りでさえ楽しくなるのはやっぱり光が好きで好きでネジが緩んでるんじゃん?
なら、アタシも素直になって自分から伝えた方が良いのかなって、
『どうせ部長に痛いとこ付かれて凹んでるってとこやろ?』
「っ、」
そう思った矢先、重ねてた筈の背中が不意に消えて勢いのままアタシは地面に転がると痛みを感じるより先に馬乗りになった光が見えて羞恥心が込み上げた。
なに、この姿勢。可笑しくない?
『俺にどうして欲しいんです?』
「ひかる、」
『慰めて欲しいなら何か言う事ありますよね?』
「、馬鹿じゃないの!勘違いも良いとこだし!」
人差し指で頬っぺたをなぞられて急激に心拍数が上がれば光を押し退けて口元を覆った。
慰めて欲しいとか、言う事あるとか、何言っちゃってんのって感じ!アタシはただ光に…
『勘違い、なぁ』
「別にアタシ凹んでないし光に慰めて貰う理由なんか無いし」
『フーン』
精一杯の強がりは否定するだけでいっぱいで、心臓に伴って熱くなった顔を隠す為に背中を向ければ、途端耳元に吐息混じりの声が届いた。
顔真っ赤にして否定されても
(み、耳が孕む!本気で思ったけど、どこまでも優位に立つ光がやっぱり気に入らない)
(20100520)
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