04. oneday/4月14日
やっとのことで食べ切ったランチにお腹も張り裂けそうだった。
当然、量も凄まじくあったけど跡部を目の前にしてれば食べては突っ込んで食べては呆れての繰り返しで食するという作業に集中出来ないったら。あれだあれ、ゆっくり食べたら満腹中枢が刺激されるってやつ。
「ごちそうさまでした」
『美味かったか?』
「無理矢理とは言えどやっぱり美味しかったよ」
『フッ、だろうな』
最早ここまで来ると髪を掻き上げて一々決めポーズを取ることすら突っ込む気も失せる。
この僅かな時間で確実に跡部の異人ぷりに慣れてきてる自分が怖い。それも格好良いって思うとか本当ヤバイ。
『アーン?何処に行く気だ』
「何処って、ご飯も食べたし教室に戻ろうかなって」
立ち上がったアタシを見て上機嫌な顔を崩したかと思えばわざわざ髪を揺らして肘付いてみたり。そこで首を振って髪を揺らす必要は無いと思いますが…まぁいい。ポジティブシンキングでいけばそれすら跡部の良いところ、チャームポイントなんだきっと。
『あれだけ恥ずかしいだの何だの騒いでたくせに教室戻るってのか?まだ授業も終わってないぜ』
「た、確かに…」
『昼休みが終わるまで俺様が付き合ってやる、座れ』
「…だけど、」
『心配するな。万が一にもお前が授業について行けなくなったら俺様が責任持って面倒見てやるよ』
「へ、」
『だから此処に居ろ』
「……は、はい…」
な、何なの…一体何なの…
面倒見てやるとか、此処に居ろとか、仮にも女の子相手にそんなこと言って良いと思ってんの?
もしアタシじゃなくて違う子だったら絶対期待するに決まってる。跡部なりの気遣いだったとしても、そんなの口説き文句じゃん。
アタシだって、期待とまでは行かなくとも心臓が煩い。普通にドキッとした。
『やけに素直じゃねぇか』
「だ、駄目なの…」
『いいや。少しくらい素直な方が可愛気があるってもんだ』
「すみませんね、元々可愛気が無くて…」
『ハッ、確かにな。だけどそれもお前の個性だろ』
「まぁそうだけど、」
『だったら良いじゃねぇか、気が強いくらいの方が俺様は退屈しない』
「…………」
だから、そういうの止めてってば。
ポーズなんか取らなくたって跡部を取り巻く空気が柔らかくなった瞬間、それが1番ヤバイ。お願いだからアタシに気許さないでよね…。
「…と、ごめん。メールだ」
『誰だ』
当たり前みたく聞いてくるけど義務化ですか。ちょっと乙女モード入ってたのにやっぱ跡部だ、とか。っていうか答えたところで分かるもんなの?アタシの交友関係分かる筈無いじゃん…!
そうは思っても携帯を取り出して馬鹿正直に答えるアタシもどうかしてる。
「えっと…同じクラスの佐々木君、」
『用件は何だ』
「…教室戻って来ないのかって」
佐々木君と言えば席が前後で比較的話をする相手だったけど、もしかしてアタシに惚れてるとか?こんなメール送って来るってことはそうじゃん?それならそうと早く言ってくれれば良かったのに!否、言ったところでアタシは佐々木君が好きな訳じゃないけど。でもやっぱり嬉しいし…とか何とか思ってると跡部は声高に笑った。全然笑うとこじゃないんですけど!
『ハッハッハッ!物好きも居たもんだな』
「すんごい失礼なんだけど」
『悪いな、生憎下手な嘘は吐けないタチなんだ』
「…………」
『それにしても残念だったな、その男は』
「え、どういう意味?」
跡部からすれば世の中全ての男が残念な気がしながら返すと、
『……名前』
「、」
お前は俺様を選ぶ、違うか?
跡部の声に、跡部の言葉に一触即発するアタシ。やっぱり跡部に名前を呼ばれるのは慣れない…!
(す、すっごい自信…)(当たり前だろ。佐々木とか口にした瞬間お前の全てのセンスを疑うぜ)(………)(何だその顔は)(べ、別に…)
(20090731)
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