俺様シリーズ | ナノ


 


 03. oneday/4月14日



授業中に美味しいお料理、慣れないテーブルマナー。
もう授業をサボっちゃった事はこの際忘れて、ナイフとフォークをぎこちなく持って食べる事の幸せを噛み締めてるって言うのに…さも当然な顔して慣れた手付きで料理を運ぶ跡部の姿ときたら。頭のてっぺんから足の先まで凛と綺麗で女の子がキャーキャー騒ぐのもわかるけど…だけど“当たり前”にしちゃったら色んな事を損してると思う。


「あのね、」

『アーン?』

「毎日楽しい?」

『あ?』


投げてみた質問に思い切り顔を歪ませる跡部は声に出さなくとも『アーン?テメェ馬鹿か、俺様にくだらねぇ質問してんじゃねぇよカスが…』そう言ってる。
そこまで言わなくても良いでしょうが。


「だって贅沢は偶にするからこそ価値があるじゃん…これが毎日になると有難みが無くなっちゃう」

『別に贅沢なんかしてねぇよ』

「だけど毎日3食シェフの料理食べてるでしょうが…」

『好きで食ってんじゃねぇ、母親も料理しねぇし、そういう環境で育ったんだからそれが普通なだけだ』

「…………」


アタシとか、ごくごく一般家庭の人なら跡部の生活は無駄な贅沢で溢れてる。
だけど跡部はソレが作られた環境に居たから、向こうの視線だとアタシ達の方が可笑しいんだって、やっと分かった。(だからって授業サボるのは頂けないけどね)
それに自分の母親が作る料理を食べれないって……


「…なんか、ごめんなさい」

『アーン?』

「えと、ちょっとだけ、跡部の事が分かった気がする」

『何言ってんだ?コロコロ忙しい女だな、そりゃ俺様の魅力を理解しちまうのは仕方ない事だがな』

「それ大分意味が違うんだけど」


せっかく善いこと言ったって跡部は跡部、それこそ仕方ない事だけど。でもアタシ自身、人を見る時はもっと視野を広げなきゃいけないなって勉強させられた。


「絶対無いとは思うけど、卵掛けご飯て食べたことある?」

『卵掛け…?オムライスのことか?』

「確かにオムライスも卵で綴じられてるけど違う、生卵に醤油とか入れて白ご飯に掛けるの」

『生卵をか?』

「うん」

『そんなもん食ってるのか?』

「うん」


跡部にしてみれば非常識な料理かもしれないし料理とすら呼べないのかもしれないけど、それにしても憐れむ様な眼は何なんですか。


『…そんなに酷いのか、』

「え?」

『親父の相手してるくらいだからお前の親父もそこそこやり手だと思ってたんだが…そんな飯しか食えねぇほど貧しかったとは流石の俺様も予想外だ』

「は?」

『そうだとすればこの料理も嫌味に取れるかもしれねぇ…悪かったな、貧困だとは知らなかったんだ』

「どうしてそうなるの…その謝罪が益々ムカつくし貧困じゃないから」


突発的発言にフォークもナイフも止まっちゃって。正に開いた口が塞がらないって表現が正しいと思う。
俺様は何でこうもゴーイングマイウェイなの?アタシの質問がそんなに駄目だった?
幾ら跡部の見方が変わったって言ってもやっぱりちょっと理解出来ない…


『ハァ、紛らわしい事言いやがって。じゃあ質問の意図は何だ』

「もういいです」

『言え』

「いいって言ってるでしょ、」

『言えって言ってるんだ雌猫』

「………別に。アタシは料理なんか出来ないから、素朴な家庭料理を食べさせてあげたいなって思っただけ」

『お前が作るって言うのかよ?』

「作るって言えるもんじゃないけどね…」


例えば、我儘が言いたくて堪らない幼い時期にテーブルマナー始め、他にも作法とか習い事とかで勉強ばっかりしていたら?想像しただけでアタシには辛くて出来ないし逃げ出しそう。だけどきっと跡部はそうやって見えない苦労をしてきたんだと思う。
だから今日の料理のお礼じゃないけど、何か食べさせてあげたいって心理になるのは特別可笑しい事じゃないでしょう?(卵掛けご飯はどうかと思うけど)


『それ、美味いのか?』

「そりゃ奨めるんだから美味しいに決まってるじゃん!簡単に出来て美味しい、それが卵掛けご飯の醍醐味だよね…!トロッとした卵と白ご飯の相性は凄いんだから」


って、何で熱く語ってんの…
これだから庶民は、そう言われても反論出来ないじゃん…
昨日卵掛けご飯食べたから余計力入ったなんて恥ずかし過ぎる。どうせ跡部だって馬鹿にして怪訝な顔してるに決まってる――――…


『へぇ?そいつは楽しみだな』

「…………」


馬鹿にするに決まってる、決まってるじゃん……
なのに何でさっきから不意にそんな優しい顔してるの…跡部のくせに、自分が1番で他人を過少評価する俺様なくせに。


『自分が言い出した事だ、絶対作れよ?』

「……………」

『聞いてんのか、アーン?』

「あ、う、うん…」


跡部の無理矢理で恣意な性格なんか嫌いなのに。


『…ははーん、分かったぞ』

「な、何、」

『名前』

「!」


見惚れてんじゃねぇよ

嬉しそうに笑わないで、勝手に名前呼ばないで。やっぱりそういうの狡い。

(何回俺様に見惚れる気だ?)(ち、ち、違うから!)(見る度に惚れ直したくなる気持ちは分かるがな)(違うって言ってるでしょ!)(美し過ぎるのも罪なもんだな)(よ、良くそんな台詞言えたよね…!)(本当のことだろ)


(20090627)


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