俺様シリーズ | ナノ


 


 02. oneday/4月14日



「………………」

『早く食えって言ってんだろ』

「食べれないってば」

『いいから食え』

「今は授業中だって言ってるじゃん!」


ご馳走を目の前に何度同じ会話を繰り返しただろう。
断固として譲らない両者なもんだからそれ以上進まなくてお話にならない。

だってやっぱり授業中、皆が頑張ってる中こういうのは駄目だと思う。サボりだったら自己責任だしどうとでもして下さいって感じだけどアタシはあくまで跡部(こんな男に“君”を付けるのも阿呆らしくなってきた)に無理矢理呼び付けられただけだもん。


『ハァ…じゃあお前は授業に戻るってのか?』

「当然でしょ」

『分かった好きにしろよ』

「分かってくれるの遅す『世の中には米粒ひとつ、まともに食えない人間も居るのに贅沢なもんだな。折角シェフが手間隙掛けたのも無駄な苦労って訳だ。』」

「な、何なのその言い方…」

『アーン?本当のことだろ。おい、これ全部片しとけ「ちょっと待った!」』

『……何だよ雌猫』

「食べる…食べればいいんでしょ!!」


やっと話が纏まって立ち上がったって言うのに、こんな脅迫紛いなこと言われたらアタシだってもう一度椅子に座るしかない。別にアタシが食べなくても同じテニス部の人に食べさせるとか、家に運んで後で食べるとかすれば良いだけなのに跡部なら本当に片しちゃいそうだから。
跡部の言葉を借りるなら、食べ物を捨てるなんて食糧難の人に本当に申し訳ないもん…


『漸く物分かりが良くなったのか、名前チャンよ?』

「…勝手に言ってて」

『それにしてもお前のせいで冷めちまったじゃねぇか』

「一々文句言わないの」


ほんの数日前までは跡部とは全くの無関係で話したことすらなかったのに。これもそれもパパのせい。跡部のお父さんも良かれと思って息子に言ってくれたんだろうけどありがた迷惑ってやつだよね。
あーあ、平和な日々に戻りたい。


『百面相したってお前の顔は変わらねーよ』

「、失礼ね!ちょっと考え事してただけでしょ!」

『ピーピー鳴かずにさっさと食え』


ほんっっっとムカつく!俺様野郎め!
アタシだってね、17年間この顔と付き合って来たんだから自分が特別美人じゃないことくらい分かってますよ。(だからって特別不細工じゃないでしょうが)

とことんマイペースな男を相手に全部受け取っちゃ身が保たない。分かってはいるけど、適当に流しておけばいいものを逐一勘に触って言い返したくなるのは跡部の特技なんでしょうか。(あーやだやだ)
せめてもの抵抗心で、眉を寄せて強く「有難くいただきます!」なんて言ってやったけど何ともない顔で『おう』って。反応薄すぎてもっとムカつくんだけど。


「……、美味しい」


だけどこんな豪華な料理が不味いわけなくて、歪んだ筈の顔は自然と綻んじゃう。
美食家だとか言わないけど、やっぱり人間、美味しいモノには目が無いってやつ。


『フーン?』

「な、なに…」

『そういう顔も出来んじゃねーか』

「…………」


悪くねぇ、そう言った跡部にそのまま返したかった。
あれだけ卑屈に笑ってたくせに、今どんな顔してるか分かってるの…?


『アーン?俺様に見惚れてんのか?』

「そ、そんな訳無いじゃん!勘違いしないでよ!」

『あーあー強がっちゃって名前チャンよぅ?』

「だから違って、」

『ハッ、そこまで言うならいいぜ。俺様の顔と金目当てで寄って来る女には飽き飽きしてたんだ』

「、は?」


俺様を惚れさせてみな

やっぱりこの男は常人じゃない。

(別に跡部がナルシストなのも自信過剰自意識過剰なのも良いんだけどさ、)(アーン?)(勘違いは可哀想になってくる)(どういう意味だ)(…ここまで言っても分かんないならもういい)(素直に好きだって言えよ雌猫)(少しは人の話聞こうよ)


(20090614)


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