俺様シリーズ | ナノ


 


 02. oneday/4月14日



虚しく地面に転がった雑巾茶が入ったコップを拾って部室で丹念に洗う。
特にどれが誰のだと決められてなかったプラスチックのコップなのに、今手に持っているコップの泡を洗い流せば黒の油性マジックで“バカ名前専用”だなんて書かれていた。


「幸村の奴め…」


その場は幸村に一泡噴かせてやればいいってノリだったけど後々の事を考えて無かったアタシは軽く浅はかだったと思い知らされた。
幾ら綺麗に洗ったところで雑巾の絞り汁が入ってたコップを使うなんて嫌すぎる…自分の名前を真田に書き替えて、明日からは家からコップを持って来ようと油性マジックのキャップを取った。


「!!!」


突如ポケットで振動する携帯に条件反射で肩が跳ねて、マジックがコロコロ床を転がっていく。
部室を出れば幸村は居るんだからまさかまさか幸村からのメールじゃないよね、信じて携帯を開く。


「良かった、違う…」


幸村専用のフォルダにメール表示が無いことに安堵して、それなら誰でもいいやってメールを見ると時間が止まったかと思った。


「…う、嘘でしょ?」


差出人は、アタシが密かに憧れてた同じクラスの夏目君で、

(好きなんだけど付き合ってくれない?)

そう書かれてあった。


「ああああアタシで良ければ!そりゃもう宜しくお願いしますだし!!」


心臓ドキドキさせて周りには薔薇の花を飛ばして直ぐ様メールを返信。
本当、コップとかどうでもいいし幸村のこと考えてる場合じゃない。掴んだ幸せを今噛み締めずにいつ噛み締めるって言うの!


『ふーん』

「、」

『スキップなんかして何してるんだ?』

「ゆ、幸村…!」


携帯を握り締めてルンルンスキップしてたところを幸村に見られたとなれば幸村のこと考えてる場合じゃん……!
もし夏目君の事がバレたら面白がってお取り潰しになるに違いない…それだけは何としても阻止すべく、肘を付いて窓から覗き込む幸村に適当な話を振った。


「ゆゆ幸村、今日は良い天気で暖かいし気持ちいいよね!」

『もう雲ってるけど』

「……………」


さっきまで快晴だったはずなのに何で……?天気すらアタシに味方してくれないのね、テンパるアタシに思いがけない一言を漏らす幸村さん。


『アタシで良ければ宜しくお願いします、かー』

「え、」

『名前って夏目みたいのがタイプなのか?』

「どどどどうしてそれを…!!」


それはさっきアタシが夏目君に送ったメールじゃないですか。本当に今送ったばっかりなのに何で幸村が知ってんの!?まさか幸村が送って来たわけ?や、でもアドレスはちゃんと夏目君だし、今まで夏目君とメールした時は(ほんの2、3回だけど)本人だったんだから間違いないはずなんだけど…?


『これ、何だ?』

「へ?」


窓から放り投げて来たモノは黒の携帯で。
何を言いたいのか分からないアタシが怪訝な顔で幸村を見てるとニッコリと笑う。(あああ寒気が!)


『それ本人に返しとけよ』

「へ!?まま、まさか、」

『ハァ…俺に隠し事なんてふざけた事よくするよ』

「ゆ、ゆき、」


いい性格してるじゃん

瞬間、顔面蒼白なアタシは背筋が凍って震えずに居られなかった。(気温は20度越えてるのに超寒いんだけど!!)

(ちょちょちょっと!この携帯夏目君のなの!?)(あー、鞄の中に落ちてたから拾ってやったんだ、感謝して欲しいな)(鞄て幸村の…?)(そんな訳ないだろ、夏目のだよ)(それって拾ってあげたんじゃなくて窃盗だから!犯罪だから!!)(なに、そんなに名前は警察に突き出して欲しいのか?)(え、アタシ!?)(今名前が持ってんだから当たり前だろ、何なら指紋取ってあげるけど?)(ややや止めてよ!)(っていうか、名前が誰かと付き合うとか生意気過ぎてムカつくし相手が可哀想だよモテるとか思うなよ馬鹿)(……なんなのその言い分…)


(20090415)


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