俺様シリーズ | ナノ


 


 01. oneday/4月14日



何だか知らない内にテニス部のマネージャーになってて
何だか知らない内にテニス部の部長は恐怖の存在になってて
何だか知らない内にテニス部の皆から憐れみの眼差しを受ける様になってた


『名前』

「な、何?」

『汗かいたんだけど』

「…だから?」

『タオル取ってって言ってんのが分からないとか言うのか?』

「直ぐ横にあるんだからそれくらい自分で『名前、』」

『手渡しが基本だろ?』


有無を言わせない、寧ろ権限すら皆無にさせる幸村精市の笑顔は巷で言われる“病弱・微弱”だなんて言葉を清々しいくらいに吹き飛ばしてくれた。


「…どーぞ」

『すまない、苦労かける』


わざわざ苦労かけてるのは自分じゃないか、言いたい言葉を飲み込んで幸村から視線を外すと赤也が眉をハの字にしてこっちを見てた。
その顔が幸村に逆らうなと言ってるのか、不憫に思われているのか、はたまた両者なのかは分からないけどいい気はしない。


『赤也が何だって?』

「え、」

『赤也が名前を不憫に思う理由が分からないな』

「そそそんな事誰も言ってないし!」

『ははっ、言ってみただけ』

「……………」

『名前は俺の世話を焼くのが嬉しいんだから、ね?』

「え、あ、いや、そう、ですね…」

『焼かれた覚えも焼かれる覚えも無いけど』

「あはは…」


……悔しい
超悔しいっ!

何で何でアタシこんな扱いされなきゃいけないの?アタシが幸村に何したって言うの…!
毎度貶され良い様に良い様に扱われて、アタシは幸村の召使じゃないっての!ねぇ何様?(あ、幸村様でした)言い返せないアタシもどんだけヘタレなの?(だけど言い返せる訳ないじゃん)


「いいわ、こうなったら幸村に仕返ししてやるんだから!」

『(仁王ー、今すんげー事聞こえてきたんだけど)』

『(そうかのう)』

『(え、止めねーの?)』

『(触らぬ神に祟り無しぜよブンちゃん)』

『(そだな)』


幸村の居ない部室で仁王とブン太がそんな会話してるなんて気付く事も無く、アタシは浮かんだ作戦にニヤニヤ口を緩めながらお茶を入れていた。


「待ってなさいよ幸村…」


今からポーカーフェイスを装わなきゃ、想像しては緩む口を必死に制して。
実際にあるのかは知らないけど上司に雑巾茶を注ぐ女子社員、今なら痛い程気持ちが分かって、何も知らずにお茶を飲むその反応を心待ちにするドキドキ感…悪くないんじゃない?
手に持っていた部室の布巾(又の名を雑巾)を置いて、茶色く濁った麦茶をお盆に並べたら浮き足で部室を開けた。


「ゆーきむらー!お茶入れたよー!」

『有難う』


雑巾…否、布巾の絞り汁だなんて疑う事無い幸村は『たまには気が利くんじゃない?』そんな笑顔でコップを受け取る。
さぁ、さぁさぁさぁ!
アタシが丹精込めて入れたお茶を味わって下さい!

ごくり。

あと数秒で快感が生まれるという緊張で生唾を飲んだ瞬間だった。


『名前、あげる』

「へ?」


手に持ったコップをアタシへと突き出すニコニコ顔の幸村さん。
あ、あげる?それは、どういう意味なんでしょうか…


『名前も疲れて喉渇いてるだろ?俺はいいから飲みなよ』

「ああああアタシはいいよ!うん、いいいい!別に喉渇いてないし!」

『遠慮しなくていいんだよ、俺だって鬼じゃないんだから』

「だ、だからいいって!これは幸村の為に――………」


突き出されるお茶を突き出し返した時、幸村の手から落ちたお茶はテニスコートに薄汚い染みを作って、眉を寄せて眼を細めた幸村はこう言った。

あーあ、何やってんだか

(俺が進めたお茶が飲めない訳?)(そ、そうじゃないけど…!)(っていうか名前がする事くらい分からない筈ないだろ)(へ、)(俺に雑巾で作ったお茶飲ませようだなんてそれなりの覚悟あるんだろ?)(ごごごごめんなさい!!)



(20090328)


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