最近、仁王が良く分からない。
昨日だって抱き締めてきたりなんかして。
まぁアイツは詐欺師だ。人をからかうことが趣味なんだろう。いや、寧ろ生き甲斐?
「まぁどうでもいいや!気にしない気にしない」
そう思うと胸がチクン、とした。
あれ、なんでだろ。
無性に1人になりたくなって、大好きなメロンパン片手に誰も寄り付かない屋上へ足を向けた。
仁王が居ませんように。
「、ふぅ」
屋上のドアを開けても仁王も誰も居なくて安心した。
チクチクする胸を忘れるためにメロンパンの包装を開けてがっつく。
「あー美味いー!やっぱり食がアタシの幸せだわ」
自分を納得させると、ドアがガチャ、と音をたてた。
え、まさか仁王?
「にお――――…」
仁王の名前を呼ぼうと思ったのに。
そこに居たのは仁王とはかけ離れた容姿。
いつぞやの、デブだ。
『名前ちゃん、』
ええっ!
嫌だ何、なんなの!?
勝手にアタシの名前呼ばないでよ!
寒気がして全身に鳥肌がたった。
『名前ちゃんが屋上行くの、見えたんだ。だから僕も、』
いやいやいや!
お前は来なくていいだろ!
ストーカー行為は止めてくれ!
『やっぱり僕、君のことあきらめられない!!』
「ひいぃぃぃぃ!!!」
100キロの巨体がプルプル肉を揺らしながら突進してくる。
危機一髪で避けると、デブは鈍い音を立てて転げて。
いやー!!!
気持ち悪い!!!
ハァハァ言ってんだけど!
『そんなにアイツのことが好きなの?』
「え、」
『あんな訳分からない男の何処がいいんだ…僕のほうが、僕のほうが、』
「は、はぁ?」
言ってる意味が良く分からない。
しかも巨体を起こして、また突進してきたーー!!!
『僕のほうが君を幸せにしてあげるのに!』
「ギャーーー!!!嫌だ止めて来ないでーー!!」
………あれ?
さっきみたいに鈍い音がしない。
アタシにもぶつかってない。
どうなってるの……?
『そこまでにしときんしゃい』
「にっ、仁王!?」
目を開けると仁王が居て。
仁王がデブの頭を押さえてた。そのせいでデブはジタバタしていた。
その動きがまた気持ち悪い。
『何するんだ!おっ、お前のせいで名前ちゃんは…!』
『お前の出る幕じゃないんじゃ』
なんだこれ、なんか仁王が格好よく見えるじゃない。
『お前なんかっ!どうせ名前ちゃんの気持ちを弄ぶ気なんだろ!』
でも、やっぱり話がおかしい。
気のせいじゃない、これは。
なんかアタシが仁王のこと好き、みたいな。
『さぁ、それはどうじゃろうな』
『ど、どうゆう意味だっ!』
イマイチ理解しきれないアタシに、仁王はお得意のニヒル笑いを向けて。
『名前、俺達付き合っとるんじゃなか?』
「はぁ?何言―…」
駄目だ!
ここは否定せず肯定したほうが身の安全……!
仁王からの助け船だ。
「うん!そうそう!アタシ達ラブラブだよね!!」
『、って言うとるけど』
『……っ、』
そう言うとデブは何も言えなくなったのか屋上から出ていった。
そりゃそうだ。
お前が仁王に勝てるわけがない。
(仁王じゃなくても勝てないだろうけど)
「はぁ、助かった…」
『王子登場で、じゃろ?』
「まぁそうゆうことにしてあげ……ってアンタ。アイツに何て返事したのよ」
そう、これを聞かなくちゃ。
じゃないとアイツの言ってる意味が分からないままだ。
『ん?仁王君が好きなの、ごめんね。って』
「………アタシがいつアンタのこと好きだって言った?」
『そのおかげで助かったんじゃろ?プラマイ0』
まぁね。
んん?いや、でも仁王がそんなこと言わなかったら突進してこなかったんじゃ……
『そんなことないない』
「人の心中読まないで下さい」
『クックッ…』
「ハァァ…噂でも広まったらどうしてくれんのよ。彼氏なんか出来ないじゃない」
『それでええ』
「他人事だと思って適当なこと、」
“言ってんじゃないわよ”
その言葉は仁王の唇で遮られる。
俺はお前さんが
好いとう、
お前さんも俺を
好きになりんしゃい
(あり得ない!)
(なんで?)
(順序が違うのよ馬鹿!)
(名前が煩いし)
(それが告白の時に言う台詞!?)
(愛しとる)
(……ゆ、許してあげる)
(2009)
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