『嫌になってへんよ』
アタシにとって白石君は、害もなけりゃ利も無い、可も不可も無いような存在だったのに。
dear.
bet.3 本当は、
『名前ちゃん、今日一緒に帰ろか?』
「え、あ、うん」
『何や白石、名前と仲良くなったん?』
『元々仲ええっちゅうねんな?』
「う、うん」
危ない。普通に「何で」って言いそうだった。白石君が普通だから調子狂わされるじゃんか。
『ほな行こか?』
『あー名前先輩』
「、」
『また明日』
「、うん…また明日…?」
白石君に手を引かれると忍足君が手を振ってくれて“バイバイ”する事に違和感は無いのに。隣に居た財前君を見ると、含み笑いをされてるみたいで何だか胸騒ぎがした。
『名前ちゃん』
「うーん?」
『流石切り替え早いな』
「当ったり前じゃーん?」
今朝は苦笑してたくせにもう慣れたのか、クスクス品のある白石君の笑い声を聞くと、財前君のことなんて忘れちゃう。
『聞きたい事も言いたい事もめっちゃあんねんけど――って言うとる側から煙草喰わえんの!』
「別にバレなきゃ良くない?」
『ええ事無いわ、没収や没収』
「とか言って自分が吸うんじゃん?」
『吸わへんから』
本当はね、こんなお説教なんて嫌いだし聞きたくなかった。白石君と一緒に帰るってことは絶対そうなるって分かってたから尚更嫌だったのに。
『あんな、昨日も言うたけど』
「うん」
『煙草が害あるん分かるやろ?名前ちゃんはまだ成長期やねんから余計あかんのや。病気にでもなったらどないするん?後で泣いたって遅いんやで?』
「アタシは泣かないし病気ならないもん」
『あんなぁ…そんなん誰にも分からへんやろ?それに俺は嫌やねんで名前ちゃんが病気になってしもたら』
「……………」
『俺が、泣くかもしれへん』
嫌だったけど…
だけど嬉しかった。昨日も昨日で白石君に見られて面倒臭いだけだったのに『もっと自分の身体大事にし!』って物凄い剣幕で怒ってて、身内じゃなく他人なのにアタシの事を考えてくれるのが嬉々だって思えた。
ただ禁止されてるからじゃなくて、本気で心配してそうやって蕭条を向けてくれるところ、幸せだなって。この人、好き。白石君のことを普通から特別にしたくなった。
「……白石君が泣くなら、アタシも泣くかも」
『え?』
「白石君が泣いてるの見たくないし」
『……………』
作り物じゃないアタシを見ても軽蔑どころか変わらず笑い掛けてくれて、
『せやったら、俺の為に煙草止めへん?』
「やだ無理うざい」
『名前ちゃん、』
「何、よ――、」
『これで我慢しなさい』
ポイッと口の中へ甘い甘い飴を入れられたら白石君本人の甘さが広がった気がして、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
ごめんね、うざいなんて嘘。
絶対言わないけど白石君がいつもそうやって止めてくれるなら禁煙出来るかもしんない。
(20091116)
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