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 02.



『おはよう白石君』

「、おはよ…」


やっぱり彼女のこの顔が作り物やなんて思えへんくて、学校で見る姿はほんまに繊細な硝子細工みたく思えた。……慣れへん、わ。


dear.
bet.2 愛嬌


「オサムちゃん。どういう事なんか説明して貰おか」

『うん?何や白石顔が怖いでー?』

「笑って誤魔化そうたってそうはいかんで」


朝練の為に部室を開けて、何も無かった様に微笑む彼女に苦笑いを浮かべた後オサムちゃんの元へと走った。

昨日あれからオサムちゃんは全て知った上で、それを見逃す代わりにマネージャーにさせたんやと聞いた。喫煙は断固反対と言い切った俺に、文句はオサムちゃんへどーぞなんて躱されて、混乱した頭を落ち着かせる為にも昨日は「何があろうと喫煙はあかん」とだけ告げて帰った。
とりあえずは身体も心も休めて日が明けた今日、幾分冷静さを取り戻した訳やし説明して貰おかオサムちゃん?


『うーん。白石は何て聞いたんや?』

「何てって、オサムちゃんは煙草認めとるって」

『ハッハッハッ!オサムちゃんも吸うとるからなぁ』

「笑い事ちゃうしそういう問題ちゃうやろ」


オサムちゃんじゃ話しにならへん、何でこれで教員免許が取れたかも神秘的やと頭を抱えたのに、


『なぁ白石?』

「、」

『オサムちゃんが名前ちゃんをマネージャーにしたんは白石が居るからやで?』

「……………」

『名前ちゃんには白石がええんちゃうかって思ったからや』


そんな風に言われるとオサムちゃんにはオサムちゃんの考えがあるんやろかって思わされる。それに、彼女に気があった俺は嬉しくない筈が無い。
彼女の上っ面しか知らへんくて、今もその気持ちがあるかと言われたらハッキリ頷ける訳やないけど…。


『白石、頼むわ』

「…乗ってしもた船やからええけど」

『流石白石や!!ええ男になるでー?』

「オサムちゃん調子良すぎや」


兎に角今は、彼女と向き合って彼女を見てみようって。そう思えたのはオサムちゃんのお陰なんかもしれへん。

そしてテニスコートへと戻るとオサムちゃんがコピーしたプリントを片手に部員の練習風景を眺める名前ちゃんが居った。それだけを見ると、ほんま健気な女の子、にしか見えへんのになぁ…


『、白石君』

「ちょっとええ?」

『うん良いけど…』


誰も居てへん部室へと誘ってドアを閉めると、


『あああ寒っ!外って超寒いんだけど!』


途端一変する彼女に感服しそうになった。多重人格者みたいに顔を変えられるところが何とも…凄いの一言に尽きる。


「やっぱりこっちが地なんや?」

『うん?当然じゃん?』

「そか」

『だけど何?改まって話しでもあんの?』

「オサムちゃんと話したけど結局良く分からへんくて」

『あ、それ分かるー!適当過ぎるよねあの人』


自分の話題やっちゅうのにケラケラ他人事の様に笑って。どうしたもんかなーって思う反面、“普通”に笑う姿を見るのは初めてで新鮮で、こっちんがええかもって少しだけ思った。


「喫煙はともかく、名前ちゃんは何で自分を作ってるん?」


何を言うても1番気になるのはそれで、何の為に何があってなんか、何か俺が力になれる事は無いんやろか。単純に浮かんだ。


『えー?楽しいから?』

「は?」

『本当はね、高校生活大人しくしてたら卒業したあと独り暮らししても良いよって親から言われててね』


まぁ、家であんな感じなら条件下でそう言いたくなる両親の気持ちも分からんでも無い、かな。普段大人しい優等生を演じてたなら問題が起こった時すら大人は甘い顔しそうやし。教師って真面目な人間に贔屓目なとこあるもんやし。
せやけど楽しいって何や?


『でもね、アタシの本当の顔知らないのに“良い子”だって思われるのも楽しくって』

「……………」

『男の子の話し聞いてたら“守ってあげたくなるー”とか言っちゃってさ、もう何、優越感てやつ?』


あー…自分にも心当たりがある分、突っ込む気にもなれへんわ…
まさか誰もそんなん思われてたなんや想像つかへんやろうし。


『嫌な女って思ってんの?その顔』

「うーん…っちゅうかまんまと乗せられてた俺も未熟やなって」

『あははっ!ウケる』

「ウケるってなぁ、一応俺も名前ちゃんに憧れてたんやから」

『…じゃあ今は嫌い?』

「、」


どこまでもあっけらかんとした態度に溜息は必然と溢れて茫然自失としてたのに。


『アタシの事、嫌になった?』


眉を下げて静寂な顔を見てしもたら、自分が彼女に“弱い”んやと思い知らされた。
その顔でその台詞は狡いんちゃう?


「なってへんよ」

『本当に?』

「うん。禁煙させる為にも俺が付いててあげなあかんしな」

『……それは余計なんだけど』

「あかん。」

『白石君うっざい!』

「何やって?」

『うざいったらウザイ!』


聞き捨てならへんけど、悪態付きながら口元は笑ってたから許してあげようかなって、俺も笑った。昨日より彼女が俺に対して柔らかくなったと思うんは、気のせいなんかちゃう。


(20091109)

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