dear. | ナノ


 


 29.



あの人に隠された真実を知りたい、それなら俺は手段なんや選ばへんし選ぶ必要は無いと思った。

せやけどその先に見えるモノが艱苦なら、少しだけ後悔が生まれるんかもしれへん。


dear.
bet.29 追い掛けた先に、


学校も部活も休む、部長にメールを打った俺は既に自室を抜け出してた。廃ビルの屋上から見下ろすのはあの人の自宅で、何かを知る為にはこれくらい遣らなあの人の口から話しを聞けるとは思わへんかったから。

風が吹き抜ける屋上は寒いし、こんな気持ち悪い事しとる自分は悪心を浮かばせるし、況してや直ぐに状況把握なんや絶対的な可能性は無いのに。そんな思いを押し殺してでも僅かな可能性に賭けたいと思ったんはそれだけあの人に執着してる証拠かもしれへん。


「、」


寒風に肩を竦めてマフラーを口元まで上げようとした時、小さい可能性が揺らいだ。鞄ひとつ持って玄関から出て来たあの人は明らかによそ行きで、かと言って学校の方向とは真逆に歩き始めた。

何処へ行くんかは分からへん。単にコンビニとか散歩とか、何ら関係無い事かも分かれへん。せやけど俺の脳内は妙な期待を感じてて、直ぐ様屋上から掛け降りてあの人の背中を追った。


(お、時間ぴったりやなぁ!)

(アタシ遅刻した事無いじゃん)

(ハハハッ!優等生やったしなぁ)


……オサムちゃんと待ち合わせ?こんなとこで?
あの人が向かった先は見覚えのある場所、謙也先輩の自宅つまり忍足総合病院やった。入口近くの喫煙所で手を振ってるオサムちゃんは相変わらずの顔してて、隣の位置に着いたあの人の頭をポンポンと撫でた。


(無理言うて悪かったな)

(アタシは別に良いけど学校は良いの?)

(教頭は頭堅いねんけど校長は話しが分かる人やから)

(じゃあ教頭に怒られんじゃん?)

(ハッハッハッ、そんなんは適当に流しとくもんやでぇ)


そう言えばそうや。
オサムちゃんが今ここに居るっちゅう事は学校を抜け出して来てるって事。それに教頭や校長の名前まで出て来るっちゅうのは…
何処まででかい話しになっとるんや…?


(今日は調子良えんか?)

(薬が効いてるし……その分キツいけど)

(変なもん、見えるんか…?)

(今は大丈夫だよ、っていうか早く行こうよ予約時間遅れるし、意外と脳外科も混んでるんだよ)

(ああ、せやな)

(何でアタシなんだろ本当厄介だよね、――病って)


薬、脳外科、何かが見える、それに最後の……
最後聞き逃した言葉を怪訝に思うと途端、オサムちゃんはあの人の頭を撫でて憂愁に笑う。それはさっきよりも柔らかく優しい手に見えた。


「……………」


兎に角、や。
少なからず幾つかの鍵は手に入れた訳やし後は検索を掛けてみれば良え。病院の中へと入ってく2人の背中を見送った後、インターネットが設備された図書館へと急いだ。

脳外科、その言葉を聞いてしもた限りそれなりの覚悟はしてたつもりやったのに、パソコンに映された画面に並ぶ文字は眼を逸らさずには居られへんかったんや。


(20100730)


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