迷惑の言葉に必然と心は堕ちていく。せやけど改めて思う。
俺は何で、何のきっかけで彼女にそう言わせる事になってしもたんか。
揃って穏やかな顔をしてコンビニから出て来る恋人を見ればもう、あの時の会話も仕草も触れた肌も夢にさえ感じてた。
dear.
bet.28 憂鬱心情
(寒いんで部活と学校休みます)
翌日、寒さと気怠さと雲ったままな胸中のまま眼を覚ますとふざけた様なメールが届いてた。
文面と内容から相手は一目瞭然やけどほんま……休みたいんはこっちやでっちゅう話しや。まあ、財前も冗談言いながら体調悪いんやって信用して、分かったと返信した。
正直言うと俺も学校休んでしまいたい。別にゆっくり寝たい訳やないけどテニスにしても授業にしても頭が働かへん。身にならんまま生活してもしゃーないやんか…。
みっともない事言うてるんは分かるけど、それだけ俺にとっての彼女の存在は大きく深かったんや。
―――そう思っても、足は勝手に学校へ向かって朝練前に職員室へ行く。ほんま何やろな俺は。
「オサムちゃん」
『、白石!今日も、早かったなぁ!』
「―――――」
中へ入ってオサムちゃんを目指すと、当人は動揺して手に持ってた何かを引き出しへ投げ入れた。
それはもう突っ込む迄もなく怪訝であるけど、俺の眼にはハッキリ見えた。
“退学届”の文字が。
「誰か、学校辞めるん?」
オサムちゃんが持ってるって事は同じクラスの誰かっちゅう事や。知らん奴やない、見知った誰かが中退と言われたらやっぱり気になるのが自然淘汰で、まだ学校側へ提示してないなら処理はされてないんやろう。
今はオサムちゃんが引き止めるなり何か行動を起こしてる時なんか、そう考えてるとオサムちゃんは視線を流して曖昧な笑いを浮かべてた。それに違和感があったのは気のせいやない。
「オサムちゃん、それ、」
『、白石は早よ部室開けたり?誰か待っとるかもしれへんでぇ』
「オサムちゃん!まさか名前ちゃん、やない、やろ…?」
『白石、』
「他にそんな素振りしてた奴、居らへんやんか…違うなら名前言わんで良えからそう言うて!なぁ、名前ちゃんなん…?」
『……………』
昨日学校を休んでたのは彼女だけ。その前の日も、更に前の日も誰も欠けてなかった。学校辞めたいって思ってる奴がギリギリまで普通の顔して授業受けるなんか考えられへん。
俺に会いたくないから、そんな理由だけで学校に来おへんかったんやって思ってたけど辞めたいって、そこまで……?
『…とりあえずは休学って形にしてるから』
「え?」
『そっとしといたってくれへんか?』
伏せ眼がちに煙草を喰わえたオサムちゃんが否定を伝えてくれる事は無くて。これ以上、何を言われても口は開かへんとでも言う様に空気を濁らせた。
『白石』
「、」
『これから午前中、外せへん用があって2限は自習やから宜しくな』
「………………」
『…白石のせいやない。お前は悪くないんやからそんな顔せんと行き』
ポンポンと背中を叩かれて外へと促されるけど辛うじて動く足は鉛みたく重かった。
重力に押し潰されそうな身体は声も無い悲鳴を上げてる気がして、俺自身狂乱してしまうのも時間の問題なんちゃうかって。そんな欝を思わせるくらい衝撃的で脈動が超速に打たれる。
「なんで、なん……」
職員室から出た廊下で勢いのまま崩れる身体はほんまに重たい。
何で、何で、そればっかり馬鹿馬鹿しく繰り返す。
そやけどしゃーないやん…?俺のせいで彼女が学校を辞める、俺が彼女の人生を壊してしもたんと変わらへんのやから。
まさか中退するとか、考えもせえへんかった。
「…せやったら、俺が辞めたら良えねん…」
どないしたら良えの?
どないするのが正しいん?
俺が彼女にしてあげられる事って何も無いんか?
ごめん、ごめん、ごめん。
じわじわ溢れてくる眼の中の水分は内側から俺の頭を殴ってる様に頭痛を起こして溢れていく。
こんなん知りたくなかった。認めたくない。
現実逃避した脳内は身体にもそれを命じたらしく学校を抜け出して家まで疾走させた。さっきまで潜ってたベッドの上で布団を被ったら経を唱えるみたく「ごめん」と「名前ちゃん」を何度も繰り返して。
直接彼女に謝りに行きたい、そう思った頃には既に昼を回ってた。
ゆっくりと携帯に手を伸ばしてもう1度だけ、ほんまに最後で良えから彼女と話しを、祈る様に携帯を開けると1通のメールが届いてた。
(あの人の事分かったんで電話下さい。財前)
…………え?
(20100726)
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