dear. | ナノ


 


 27.



心地良いとは言えへんけど、机の上で腕を組んでそこに顔を埋めれば途端に睡魔が襲って来た。
それだけ心身共に疲れてたって事か、昨日あんまり寝られへんかったからか。

理由はさておき、深い眠りの中では夢さえ見ずに時間が流れて、一瞬が過ぎるなんや呆気ないなぁって…目覚め一番にそう思った。


dear.
bet.27 彼女を想う


彼女に水を掛けられた後、部室に居った財前の存在で少しは気が楽になった。特別な言葉をくれた訳やない、特別な行動をしてくれた訳でもない、せやけど笑う事も無く呆れる事もなく相変わらずな仏頂面を見せてくれた事が平静を呼んでくれたんかもしれへん。

それから眠り惚ける俺が起きたのは、謙也が身体を揺らして来たからやった。


「……ん、」

『白石やっと起きたんか!爆睡し過ぎやで!』

「謙也、」


制服ではなく黄色と緑のジャージが見えたら既に放課後やっちゅうのは一目瞭然で。時間というモノはこんなにも簡単に早く過ぎていくんやって、睡魔を消し去る様に頭を振った。


『そやけど珍しいな、白石が授業サボって寝とるとか。体調悪いん?』

「体調っちゅうか…ココロの病気やな」

『は、きも!めっちゃ寒いで今の!!』

「煩いでー俺は失恋して傷心やねんからそっとしといて欲しいわ」

『ついに名前にも愛想尽かされたんか!しゃーないわな!ほんまは物っ凄い性格やった訳やし?』

「………………」

『、白石…?』


格好悪いやろ、笑うつもりやったけどやっぱり笑えへん。好きやのに、好きやのにフラれたとか、そんなん笑えへん。


『じょ、冗談ちゃうんか?』

「…ほんまや」

『、うそや、白石は名前が猫被ってるんも知ってたんやろ?せやのにフラれたって、そんなん嘘やろ…?』

「授業放棄してしまう程、痛かったんやって」

『白石、』

「まあ、気取り直して部活始めよか」


謙也の動揺を目の当たりにすれば自分がどれだけ情けない顔をしてたのかも安易で。もっと強い男やったら良かったのにって、こめかみがツンと痛んだ。そしたら彼女にもフラれる事、無かったかもしれへんのに。

結局は気が楽になろうが何しようが、未練のある俺は彼女が頭から離れへんくて、何度も何度も口には出来ひんまま好きを繰り返した。
ただ、表向きだけは部長の顔を貫いて。


『白石!』

「何や謙也、部活終わったんやから早よ帰り」

『あ、あの、飯食いに行かへん?俺奢るし!』


そして部活が終わった後、憂愁を目一杯纏った謙也が視線を床へ向けたまま拳を作って声を掛けてくるもんやから思わず笑ってしまいそうんなって。


「あほ、要らん気回さんで良えから早よ帰れ」

『せやけど、』

「俺は寄るとこあんねん。大丈夫やから」

『…分かった』


こういう時、持つべきものは友達やって実感するんかもしれへんけど今はソレが寧ろキツいと感じてしまうのも本音やった。
思った事がまんま馬鹿正直に顔へ出る謙也は可笑しいけど、それだけ自分が普通を装って無理してるのがあからさまな気がして。嫌悪すら、浮かんでくる。


「…帰ってまた寝よ、」


部活に顔を出さへんかった彼女の名前を部誌に記してそれを綴じた後、部室に鍵を掛けてゆっくり家路を目指した。

これから俺はどうするべきか、彼女を忘れた方が良えんか、彼女をもう1度説得すべきなんか。やっぱり素直に現実を受け入れるべきなんか……そんな事を考えてると家路に着いた筈が気が付いた時にはコンビニ前まで辿り着いてて、それがまた彼女と過ごしたあのコンビニやとか馬鹿げてる。
ほんまどうしようも無いなぁ俺って。空笑いを吐いて来た道を戻ろうとコンビニを尻目にすると、


「、名前ちゃん…?」

『あ…』


そこには、買い物を済ませた彼女が居った。


「ぐ、偶然やな」

『……………』

「まさかまた煙草とか言わへん、やんな…?」

『“白石君”には関係無い』

「……………」


頭の中で渦巻く彼女が目の前に居るっちゅうのに、そこに居る本人は眉間にシワを寄せて怪訝を崩さへん。


「、もう遅いし、送ってい『要らないから!』」

「……、別に話したくないならそれで良えし、後ろ歩くから送らせてくれへん?心配、やねん」

『あのね、要らないって言ったら要らな……、む、虫…!!蔵、顔に、虫……!!』

「え?」


動物が相手を威嚇するみたく眼を細めてたのに、急に表情を変えた彼女は真っ青になって脅えてる様に見えた。
虫って、俺の顔に嫌いな虫でも付いてるんか…?せやけど何も付いてへん、やんな…。


「名前ちゃん?」

『、』

「何や、おる?」

『な、何でもない!白石君の顔にハエが止まりそうだった、だけ』

「ハエ?」

『と、とにかく、送るとかそういうの要らないから!迷惑だから!』

「名前ちゃ、」


ちょっと様子が可笑しいとは思っても、そのまま捨て台詞の如く走っていく彼女を追い掛ける事は出来ひんくて。

突き放す様に呼ばれる名字と、それでも気が緩んだんか1回だけ呼んでくれた名前に、それだけで彼女を愛しいと心から思うのに、作られた壁は想像以上に太く高く大きいんやって思い知った。


(20100716)


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