自分より酷いモノを見れば忽ち平静を取り戻す頭は冷め切ってて。
そこまであの人を想うなら、いっそ声を上げて泣き喚けば少しは楽になるんちゃうんかとか、意味の無い考えが浮かんだ。
少なからず自分は視界が滲む程度やとしても感傷に浸ったから。
dear.
bet.26 昼休み、部室にて
『財前、俺って格好悪いんやろか…みっともない?』
「…さあ」
『ええねん。みっともなくても好きなもんは好きやから』
「まあ、端から見た時にどうかは知らへんけど、気持ちは分かりますよって」
『財前…』
その瞬間、少しだけ部長の顔が和らいだ。
びしょ濡れなままの頭をずっと見てるにも気が引けるし、部活用に持って来たタオルを渡して『ありがとう』と言われると何となく部長とあの人のやり取りが浮かんで。
多分、正直な気持ちを伝えた部長とソレを拒んで水を撒いたあの人。当然部長は瞠若と痛嘆の二重苦を貰ったんやろうけど…
やっぱり俺には何であの人が部長と離れたんか、その理由が怪訝で仕方なかった。あの人の胸中にあるのは何や、って。
「部長、」
『うん?』
「もし部長が名前先輩と別れるならどんな時すか?」
『ハハ、俺がフラれたのにその質問は可笑しいやろ?』
「例えば、ですわ」
『…あり得へんから想像出来ひんけど…嫌いになったとか、他に好きな子が居る、とか?』
「他」
『せやなぁ…北海道と沖縄、日本と海外、それだけ離れて暮らす事になったとしても好きなら別れへんやろうし…万が一にも明日が寿命や言われても俺は最後まで傍に居りたいから分からへんな…』
「……………」
全部、仮の話しやのに。それだけあの人を好きやっちゅうのが突き刺さるくらい伝って腹が立つんか痛いんか、それとも憂愁なんか、妙な感情が渦巻いた。
『もしかして財前、慰めてくれてるん?』
「まさか」
『それでも良えわ、有難うな』
「勘違いやっちゅうねん自信過剰」
『ほんまキツい男やわ』
出来るなら部長の言葉通り冷嘲してやりたかった。部長にもあの人にも阿呆やって、興味も皆無にして突き放したい、離れたかった。
せやけど気になるもんは気になるし、この厄介な性格が1番鬱陶しくて。
『っちゅうか財前、今更やねんけど』
「何です?」
『部室で横になって、午後はサボるつもりやったん?』
「………………」
『大丈夫やってそんな厭な顔せんでも今日は煩い事言わへんから』
「明日は雪降るんとちゃいます?」
『そうかもしれへんなぁ。っちゅう訳で俺も混ぜて』
「………………」
『せやから厭な顔すなって言うてんねん』
タオルで髪を乾かして、和らいだと言っても哀愁は消え切らん部長を見て決めた。
自分の鬱陶しさを殺す為にも、明日から動いてみようって。
机に突っ伏した部長を尻目に俺もゆっくり瞼を落とした変な部室風景やった。
(20100708)
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