dear. | ナノ


 


 25.



誰かを想って自分が泣くなんや。
そんなん格好悪いし想像しただけで気色悪い。

せやけど、どんなにくだらへんと笑い飛ばしてもあの人はグルグル脳と心を行き交って離してくれへんかった。好きに理由なんか必要ない。ただ、好き。それだけ。


dear.
bet.25 輾転反側


あの人が笑った瞬間、雨が降り始めたんかと思った。星も月も煌びやかに顔を出して筈やのに俺の左手にポツポツ、雫石が落ちて来たから。

せやけど1人きりになった公園で空を見上げてもやっぱり雲なんやひとつも無くて、でも、見えた星と月はさっきより幾分大きさを増して滲んでた。そこでやっと分かったんや。星が大きくなったんちゃうって、単に自分が、視界を揺らしてたせいやって。

答えなんか元より分かってたし、今更聞く迄も無いと思ってたけど…確かに俺はあの声に哀感を抱いてた。
「つらい」「好き」「愛してる」「俺が、アンタを」って。

(蔵とは違う)

所詮同じ人間という種類な筈やのに人っちゅう生き物は面倒臭いってつくづく思ってベッドへ身体を投げた。


「……だる」


昨日、ベッドに潜り込んでからは眼を閉じたって中々睡魔に襲われへんくて、寝よう寝ようと思えば思うほどに身体は暗い部屋で光りを求めてた。冬やっちゅうのに厭な汗が背中を伝って、風呂も入り直して水ばっか飲んで。

学校来たら今度はあの人が居てへん事に腹が立ったけど何処かで安心を感じてたんか、今頃睡魔が襲って来る。


「っちゅうか嘘吐くなや阿呆女…」


また明日って、自分が来おへんのか。
会いたいのに会いたくない。会いたくないのに会いたい。
曖昧な気持ちにムカついて、購買で買うたスポーツドリンクだけで昼飯を済まそうと、オサムちゃんが何処かから部室へ運んで来た小汚いソファーに横になった時やった。


「……、」


不意にドアが開く音が聞こえて重くなった瞼をこじ開けられるとユラユラ、スローモーションで動く陰が飛び込んだ。
それが今朝、勘に触るくらい無駄に誇らし気な顔して学校を抜け出した部長やっちゅうのは容易に分かって、また面倒臭い事が増えたと思ったのに――


「……何ですかその趣味悪い格好」

『財前……?』

「この寒い時に水なんや被って頭でも打ちました?」

『………………』


キレも無い、覇気も無い、こっちを映して間もなく明後日の方を眺めた部長は別の意味で怖かった。


『…財前、俺って名前ちゃんに愛されてたんかな』

「は、」

『今でも、そう思うし…思いたいし…俺やって、好き、やねん』

「………………」

『そやけど…何で、別れるって、言うんやろって、可笑しいやろって、非難的な事ばっか、浮かんでくんねん…』

「、――――」


何でこんな風に思ったんかは分からへんけど。
上半身を濡らして笑う部長を見たら、もし人間が息絶えてしまう前になった時はこんな感じなんかなって、ほんまに惨憺やと思えた。
自分が惨め見えてもそれ以上に。


(20100705)


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