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 21.



全く同じ、とまでは言われへんでも部長と近い位置に立てると思ってた。あの人の素顔を知ってるっちゅうだけで。好きって言われただけで。

せやから俺はあの人自身の心はともかく、遠慮なんや無しに自分の気持ちを全力投球しようと決めてた。


dear.
bet.21 見えない線


「無いわ」

『ん?』


腕を組んだまま帽子の下で他人事みたく笑って『何が?』と言われると欝な思いは拍車を掛けられる。


「あの人、何で急に暴露してんねん」

『ハッハ!財前君は気に入らへんのやな?オサムちゃんは良えと思うんやけどなぁ!』

「良えも何も今まで俺が黙って来た意味無いやろ」

『まあまあそう言わんと!』


ほんま無いやろ。これまで散々良い顔して優等生気取って来たのに今さら本性曝すってな。
煙草の事は置いたとしても楽しくなりそうやって思った矢先にこれか。一種の嫌がらせや。
そら謙也先輩の挙動不審さを眺めるのは愉快なことやけど別に男見たって……


『オサムちゃんは無理するよりこっちんがらしくて好きやねんで?』

「そういう事言うとるんちゃうって」


ま、今俺が何を思っても口にしても後の祭っちゅうやつやしどうにもならへんけど…
でもそう言えば、何でオサムちゃんはあの人に関して眼を瞑って来たんやろう、疑問が浮かんだ。本人の行動は本人にしか分からへんとしてもオサムちゃんは何で。俺が腹を立ててたあの時は自分ばっかりで考えもせえへんかったけど、冷静さがある今は少し、気になった。


「オサムちゃん」

『んー?』

「今の状況が良えって言うなら、オサムちゃんがあの人ん事を黙認してきた理由って何?」

『――……』


俺より10も歳喰った大人が子供みたいに眼を丸々とさせて視線を向ける。かと思えば『コレか?』と、煙草を喰わえる様な手振りをしてみせるから全部って視線を返して言葉を待った。


『さすが財前君。難しい質問やな』

「別に難しくないやろ」

『うーんどうやろなぁ…前に話した通りっちゅうんが正解やろか』

「はあ?」

『せやからぁ、名前ちゃんには年相応に学生を満喫して欲しいからってこと』

「……意味が分かれへん」

『あの子デリケートやから』

「は、デリケート?あれが?」

『っちゅうか、繊細過ぎて怖いんや』

「………………」


何処が?あの人が繊細なら世の中全ての人間が神経細いやろ。
そう思ったのも一瞬で、オサムちゃんがあの人を映した横顔は胡乱とした儚いモノやった。

(蔵に逢いたくなかった)

(繊細過ぎて怖いんや)

脳裏に焼き付いた2つの顔が点と点を結ぶ様に入り交じっていくのに、それの理由も意味も何も見当たらへん。これ以上あの人に何が隠されてるって言うねん。


「……………」


溜息さえ浮かばへんもどかしさに、あの人を見ては部長を見て、部長を見てはオサムちゃんを見て、それだけを繰り返してた。

上手く働いてくれへん頭を抱えて部活を終えると気休めにコンビニへ寄って白玉ぜんざいを買った。いつもならとっとと家に帰ってぜんざいに手を付けたくなるのにやっぱり今日は気が乗れへんくて。
漸く溜息が口から溢れると携帯を取り出して発信ボタンを押した。


《もしもし?》

「あー先輩、俺すわ」

《…ひかる?》

「ん」


当然電話の向こうはあの人。
望んだ声が耳に届いて少しだけ、楽になった気がした。


《あの、ひかる、》

「何です?」

《蔵と、別れた》

「は?」

《今別れて来たんだ…じゃあ》


せやけど予測してなかった言葉が舞い込んで思考回路が飛ぶと、ツーツーと無機質な機械音が響いてた。


(20100625)


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