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 18.



『光』
作られた仮面やない、ちゃんとあの人の顔であの人の声で呼ばれると自然に緩む口は悪くなくて。そのまま衝動に任せる様に手を伸ばして捕まえたくなる。

今思えば腹が立ってたその気持ちですら特別視してた事には変わりなくて、気になるとか、これから好きになるんやっちゅう前兆やったんかもしれへん。


dear.
bet.18 僕のオモイ


俺があの人の本当の顔を見てから数日が過ぎても周りは相変わらずで、その鈍さにも溜息が出そうやった。謙也先輩みたいな人ならともかく揃いも揃って分からへんもんなんかって。
せやけど部長だけは早々に気付いたみたいやった。急に距離が縮まった2人、理由はひとつだけやろ、あの人を知ったからって。

それでも部長みたいな頭の堅い男が何であんな人を選んだんか興味はあった。元々あの人に対して甘いっちゅうか好きなタイプなんやろうって眼に見えてたけど、優秀を気取って実は…なんや嫌いなタイプちゃうんかって思ってたから。でも、


(電話したくない)

(声聞くと会いたくなるから)


コンビニに行こうとたまたま通り掛かった道で聞こえて来た言葉に心臓がぎゅっと掴まれた気がして。部長があの人を選んだ理由が、何となく分かった。
嘘偽りやなく震えた声が忘れられへんくて、ずっと繰り返しては“欲しい”って思った。
せやから悪戯に腕を絡めたのにあの人は難なく擦り抜けて部長の腕へと帰ってく。既に付き合うとるんやしそれが当然、そう言うたらそれまでやけどやっぱり気に入らへんかった。


「授業とかそんな気分ちゃうねんけど」


上手くいかへん現実に項垂れて教室を出て屋上へ向かうとまた行き当たりばったりでも言う様に厭なツーショットがあって。図書室か保健室にでも場所を変えようかってUターンしようと思うと、


(ヤった後って何か間抜けだよね)

(ほら、制服直したるから)


何があったんか容易に理解出来る声に、今度は頭に血が昇る感覚やった。

幸せそうに気が緩んだあの人の声、甲斐甲斐しく愛しそうな部長の声。必然的に歪む自分の顔を抑えられへんくて。今は、部長もあの人を知ってるかもしれへん。せやけど最初に気付いたのは俺やった。部長やなくて俺やのに、何であの人はソレに気付いてくれへんかったんや。何で、俺にその声を向けてくれへんかったんや。


「ムカつく…」


あの人を知って初めて感じた嫉妬という感情に、下唇を噛んで壁を殴ると左手には改めて鮮明な痛みが返って来た。
ズキズキ赤く染まる指を見て、冷静を少し取り戻せばらしくないって吹き出して前髪を掻き上げた。


「…面倒臭、」


それは誰でもない自分への言葉やったけど、今更そんな事を思ってみたって想いを上手く扱える程器用やないし、結局は好きを貫くだけやった。
何を言うても部長から切り離せへんあの人に、ただ好きって。それでも好きって。

せやけど……、


(アタシは蔵に出会いたくなかったよ)


あの言葉は引っ掛かったまま何も聞けへんかった。
いつか名前先輩が遠くへ行って、逢えへんなるんちゃうんかって、変な不安が生まれたから…。


(20100521)
※回想終わりです。次回からは多分ですが蔵と光視点で書いていきます。


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