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 17.



好きだよ、それが恋愛感情やなくとも俺には優越を思えたし錯覚だけやとしても十分、満たされた。

部長から見れば急にしゃしゃった俺が鬱陶しいかもしれへん。あの人から見れば急過ぎて疑問符しか浮かばんのかもしれへん。せやけどそんなん、他人に自分の想いを変える事なんか出来ひんのやから。


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bet.17 僕のキモチ


去年の冬、突然現れたひとつ上のあの人は間もなく受験生になるっちゅうのにマネージャーになるとか阿呆を吐かした。聞けばあの人の意志やなくてオサムちゃんが無理矢理に連れて来た言うから黙ってたけどほんまは気に入らへんくて。

当時1年やった俺の耳にもあの人は噂は届いてた。やたら可愛い女が居るって、その上性格も今風やなく奥床しいとか何とかって。別に興味も無かったしそれまでは見た事も無かったけど、いざ目の前にすれば可愛いとか綺麗とかそれ以前に嘘臭いその笑い方が鼻に付いて仕方なかった。とにかく顔を見れば腹が立つ、それだけの気持ちやったのに雪が降ってたあの日を鮮明に記憶して忘れる事が出来ひんかったんや。

それから数日過ぎても胸中だけで留めた苛立ちは収まる訳もなくて、今日も話しをせず部活を終えて良かったとか安堵してると、


「………は、」


CDショップに立ち寄った後で帰路に着くなり雪が降ってるのもお構い無しで派手な顔した女が喰わえ煙草で歩いてるのが見えた。一瞬、分からへんかったけどあの歩き方、あの女やって。
誰かに気付かれん様にしてるんか、めちゃくちゃ濃い化粧にラビットファーのコートっちゅう学校での姿とは似ても似つかへん容姿で雪に混じるみたく白い息を吐き続ける。

これが他の奴ならどうか知らんけど俺は“やっぱり”って。そら驚くには驚いたけど嘘臭いと思ってたのが事実になった訳やし、癖の無い人間なんや居る訳無いって思ってたから。漸く仮面の剥がれた顔が見えたんやって、それを良い事に迷わずオサムちゃんの元へ走った。告げ口なんや好きやないけどああいう女は少しくらい痛い目見れば良い、俺の思いはその一点やったのにオサムちゃんと言えば、


『財前、お前は何も見てへんねんで』


頭を掻いて苦笑しながら期待を裏切ってくれた。


「オサムちゃんがそういう人間やってのは解ってたつもりやけど流石にそれは無いんちゃう?」

『そやけどなぁ…財前君!この通りや!』

「…何で?」

『名前ちゃんをマネージャーにさせたんはソレを見逃す条件やったからなぁ…』

「はぁ?」

『眼の届く範囲に置くこと』

「それでよう教師やるわ」

『ハハハッ!返す言葉もあらへんな!』


ここまでちゃらんぽらんな教師も相手するんが怠いしもうええって諦めたけど『でも、』と続けたオサムちゃんは何処か憂愁な色で『名前ちゃんにも、年相応の楽しさとか青春とか、知って欲しいねん』そう小さく呟いた。

あの人にはまだ隠された何かがあるんやろうか。それとも無意味な背伸びをする事に対してそのままの意味なんやろうか。
もしそれ以上突っ込んだとしても何も言わへんのは見えてたから厭味を込めて、頷く代わりに溜息だけを残してやった。

まぁ、何があろうと俺には関係無いし。続けられるまで優等生でも何でも演じてたら良えわ。
いつか仮面が剥がれて後悔した時の顔だけは楽しみにさせて貰おうやんか、あの時まではそう思ってたんや。


(20100516)

※不自然に光の回想に入ってしまってごめんなさい!内容が内容なので回想が終わる次回まで空メはお休みします。


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